執筆者弁護士 山本哲也
損害賠償の責任について教えてください
1.損害賠償とは
「損害賠償」とは、民法等で使われる法律用語で、交通事故等により、被害者が、現に損害を受けた場合や、将来受けるはずだった利益を失うことになった場合、加害者がそれらの損害の填補としてお金を支払うことです。
交通事故を起こした加害者は、法律上次の三つの責任を負わなければなりません。
- 刑事責任
刑法211条2項、自動車過失運転致死傷罪などの適用を受け、懲役・禁固、又は罰金などの刑事罰が科せられます。 - 行政責任
道路交通法により、運転者に違反点数が課せられて、運転免許の停止や取り消しの処分を受けます。 - 民事責任
民法709条の不法行為責任および自動車損害賠償保障法(=自賠法)によって損害賠償請求がなされます。
2.民事責任
一般に損害賠償責任といわれるのは、「民事責任」のことです。
民事責任に関しては、被害者と加害者とが直接関係することなので、交渉の余地があり、それ次第で結果も大きく変わる可能性があります。
なお、民事責任について示談が成立したことが、刑事責任の量刑に影響を及ぼす場合があります。
交通事故では、被害者に与える損害の額が大きくなり得るため、保険(自賠責保険、任意保険)をかけることで、その賠償請求に備えることになっています。
3.刑事責任
刑事責任について詳しく説明すると、交通事故を起こして人を死傷させた場合、次のような罪に問われる可能性があります。
- 過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)
- 危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条)
過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金、危険運転致死傷罪については、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役となっています。
罪が重くなるケース
次のような危険行為があった場合、危険運転致死傷罪が適用され、罰則が重くなる可能性があります。
- アルコールや薬物の影響により正常な運転が難しい状態で自動車を運転する
- 走行の制御が難しいほどの高速度で自動車を運転する
- 走行を制御する技能がないのに自動車を運転する
- 人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する
- 車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で急停止する行為
- 高速道路上で、他の車の通行を妨害する目的で、目の前で急停止したり、急接近するなどして相手の車を停止または徐行させる行為
- 赤信号を無視しして重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 自動車の通行が禁止されている道路を走行し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
逮捕後の流れ
刑事事件では、警察及び検察が、事故現場の実況見分や関係者の取調べ等の捜査を行っていきます。そして、最終的に、検察官が、交通事故の加害者を起訴するかどうか決定します。
起訴された場合、刑事裁判が行われることになりますが、過失運転致死傷罪の場合は罰金刑を前提とした略式命令手続の占める割合が極めて高く、ほとんどが罰金刑で処理されています。
略式命令手続とは、被告人に異議がなく、検察官が「略式裁判による処理が適当と判断した場合は、公判を経ずに書面の審理だけで刑が言い渡される手続です。
4.罰金と反則金の違い
罰金とは、裁判において有罪判決を受けた場合に課される刑事罰であり、前科として扱われることになります。
これに対して、反則金とは、交通反則通告制度に基づくもので、刑事罰ではありません。
交通反則通告制度とは、軽微で定型的な交通違反については各違反の定型ごとに定められている反則金を支払えば、刑事事件として立件せずに刑事訴追も行わないとするものです。一方、反則金を支払わない場合には、刑事事件として立件され、刑事訴追の可能性があり、判決で有罪となれば罰金等の刑事罰が科されることになります。
このように、反則金とは、これを納付することにより刑事訴追を免れるという効果を発生させるもので、刑事罰とは異なります。
5.交通反則通告制度
なお、交通反則通告制度の仕組みについて簡単に説明すると以下のとおりです。
警察官が反則行為(交通違反)を現認した場合、その現場で犯則者を取り調べた上、その場で犯則者に反則行為(交通違反)の事実や反則金額等について記入した交通反則通知書(いわゆる青キップ)を交付し、反則行為の告知が行われます。
その後、反則者に対して交通反則通告書が送付され、反則金の納付が通告されます。
そして、期間内に反則金を納付した場合には、その反則行為については刑事訴追等が行われないことになります。