電動キックボードによる交通事故について弁護士が解説
- 執筆者弁護士 山本哲也
電動キックボードを運転していると、交通事故に巻き込まれてしまうケースが少なくありません。
そんなとき、どのように対応すれば良いのでしょうか?適切に対応しないと不利益を受けてしまう可能性もあるので、電動キックボードに対する法規制内容や正しい対処方法などを知っておきましょう。
また2023年7月から、電動キックボードに関する法規制内容が変わります。
改正法の施行後は、電動キックボードは原動機付自転車(原付)と自転車の中間的な位置づけとなります。
この記事では電動キックボードに関する法改正内容や交通事故が起こった場合の解決方法について、群馬県高崎市の弁護士が解説します。
電動キックボードに乗る機会のある方はぜひ参考にしてみてください。
目次
電動キックボードとは?
電動キックボードとは、キックボードにモーター(原動機)がついている乗り物を言います。
「電動キックスケーター」ともよばれます。
最近では自転車や原付同様、便利に利用できる乗り物として、普及してきているといえるでしょう。
2023年6月までの電動キックボードの取り扱い
電動キックボードは2023年6月までは原動機付自転車と同じ扱いとなっています。
具体的には以下のような規制が適用されます。
- 運転免許が必要
- ヘルメットの着用が義務づけられている
- 自賠責保険へ加入しなければならない
- ナンバープレートを装着しなければならない
- 制限速度は時速30キロメートル
- 走行場所は車道のみ
2023年7月以降の電動キックボードの取り扱い
2023年7月からは法改正により、電動キックボードの取り扱い方法が変わります。
電動キックボードは新たに設けられる車両区分である「特定小型原動機付自転車」として取り扱われ、原付と自転車の間のような存在になります。
具体的には以下のように変わります。
- 16歳以上であれば免許は不要
- ヘルメット着用は努力義務
- 制限速度は時速20キロメートル
- 走行場所は車道や自転車レーン、路側帯
- 年齢制限は16歳以上
以上のように、法改正によって電動キックボードへの規制は従来より緩和されます。
大きな点としては、免許が不要になることやヘルメット着用義務が緩和されることなどを挙げられるでしょう。
以下では電動キックボードに関する法改正で重要な部分を抜粋してご説明します。
16歳以上は免許が不要
2023年6月まで、電動キックボードを運転するには原付免許が必要です。
一方、2023年7月から、電動キックボードを運転するのに免許は不要となります。
ただし運転できるのは16歳以上の人のみです。
ヘルメット着用は努力義務
2023年6月まで、電動キックボードを運転する際には必ずヘルメットを着用しなければなりません。
2023年7月からはこれが緩和され、ヘルメットの着用義務は努力義務に変わります。
自賠責保険への加入義務は継続
法改正前も法改正後も、自賠責保険への加入は義務付けられます。
自賠責保険に加入せずに電動キックボードを運転すると罰則も適用される可能性があるので、法律違反行為をしないように注意しましょう。
ナンバープレート装着は義務
法改正前も法改正後も、電動キックボードにナンバープレート装着が義務付けられます。法改正後もナンバープレートなしで電動キックボードを運転すると法律違反になるので、そういったことをしないように注意しましょう。
法改正後は、電動キックボードの取り扱いは現在より緩和され、現在よりも自転車に近づくといえるでしょう。ただしあくまで自転車のような軽車両ではなく「特定小型原動機付自転車」という原付の一種という位置づけです。
電動キックボードの交通事故はどのように扱われるのか?
電動キックボードで交通事故を起こした場合、どのような取り扱いになるのでしょうか?
電動キックボードによる交通事故であっても、基本的には原付で事故を起こした場合と同様の処理になります。以下で事故のパターンごとに場合分けして確認しましょう。
被害者にケガをさせた場合
電動キックボードを運転していて被害者にケガをさせた場合には、被害者へ損害賠償をしなければなりません。
たとえば電動キックボードの運転中に歩行者に衝突した場合などです。
民事責任について
まずは加害者の民事責任についてみてみましょう。
自賠責保険に入っていれば、最低限の人身損害に付いての補償は自賠責から行われます。
任意保険に入っていれば、自賠責保険の限度額を超える部分も任意保険会社が払ってくれます。
ただし任意保険に加入していない場合、自賠責保険の限度額を超える部分は加害者であるキックボードの運転者が自己負担しなければなりません。
刑事責任について
次に加害者の刑事責任についてみてみます。
電動キックボードを運転していて被害者にケガをさせると、加害者は過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪で罰せられる可能性があります。
過失運転致死傷罪は一般的な交通事故で加害者に成立する犯罪、危険運転致死傷罪は特に危険な交通事故で加害者に成立する犯罪です。
過失運転致死傷罪の刑罰は7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金刑です。
危険運転の場合、被害者がケガをすると15年以下の懲役刑、被害者が死亡すると1年以上の有期懲役刑となります。
自分が被害者となった場合
電動キックボードを運転していると、車などにはねられて自分が被害者になってしまうケースもあるでしょう。
その場合、事故の相手である加害者へ賠償金を請求できます。
請求できる賠償金の費目や計算方法は、一般的な交通事故と同じです。
電動キックボードを運転していて被害にあった場合の賠償金については、後の項目で詳しく解説します。
自損事故の場合
電動キックボードを運転していると、いわゆる自損事故を起こしてしまうケースもよくあります。たとえばガードレールにぶつかってキックボードが壊れたり自分がケガをしてしまったりした場合です。
自損事故の場合、壊れた物の修理代は運転者本人が支払う必要があります。自分のキックボードはもちろんのこと、壊してしまったガードレールの修理代なども払わねばなりません。
ただし、任意保険に入っていれば、以下のようなものの修理費用を車両保険や対物賠償責任保険などから支払ってもらえる可能性があります。
- 自分の電動キックボード
- 事故の衝撃で壊れた所持品など
- 壊してしまった電柱やガードレール、駐車場の柵や車止め
また人身傷害補償保険や自損事故保険に入っていれば、自分のケガについての治療費や休業損害なども保険から払ってもらえる可能性があります。
電動キックボードで事故に遭った場合の解決の流れ
電動キックボードで交通事故に遭ったら、どのような流れで解決まで進んでいくのでしょうか?
以下で一般的な流れをみていきましょう。
事故現場での対応を行う
まずは事故現場での対応をしなければなりません。
電動キックボードは車両の一種なので、運転者には道路交通法上の義務が及びます。
具体的には以下のような措置をとりましょう。
ケガ人を救護する
周囲に負傷した人がいたら、救護しなければなりません。救護せずに走り去ると救護義務違反(いわゆるひき逃げ)として重大な刑罰を適用される可能性もあります。
ただし自分がケガをして動けない場合、無理に他のケガ人を救護する必要はありません。事故の相手方などが救護してくれるのを待ちましょう。
危険防止措置をとる
事故の当事者には危険防止措置も要求されます。すなわち後発事故が起こらないために現場を整理して、後発車両へ事故が起こったことを知らせなければなりません。
電動キックボードを道路脇などに寄せて、後続車の邪魔にならないようにしましょう。
散らばっているものなどがあれば片付けるべきです。
警察を呼ぶ
電動キックボードで交通事故に遭ったら、すぐに警察を呼びましょう。
交通事故が起こったときに警察を呼ぶのは、車両の運転者の義務です。警察を呼ばないと罰則が適用される可能性もあります。
警察が到着したら実況見分が行われる(人身事故の場合)ので、担当警察官へ事故が起こったときの状況を正確に説明しましょう。
保険会社へ連絡する
任意保険に入っている場合には、保険会社へ連絡を入れましょう。そうすると、保険会社側で事故対応が開始されます。その後の示談交渉には保険会社の担当者が対応してくれるケースが多数です。
自損事故の場合でも損害金を保険会社が補填してくれる場合があるので、保険会社へ連絡しましょう。
病院へ行く
電動キックボードで交通事故に遭ったら、ケガをしてしまうケースが多いでしょう。
必ずすぐに病院へ行くようにしてください。
自覚症状がなくても病院へ行く
転倒などをして明らかにケガをした場合はもちろん、その場では外傷が見当たらず痛みなどを感じなくても念のために病院へ行くべきです。事故の被害者自身が自覚していなくても、ケガをしているケースが少なくないためです。
事故後に通院すべき病院とは
事故に遭って病院に通う場合には、基本的に「整形外科」へ行きましょう。ただし頭を売った場合などには脳神経外科を受診すべきケースもあります。
通院時、間違えて整骨院に行かないよう注意してください。
整骨院には医師がいないので、診察も検査も投薬治療も受けられなくなってしまいます。
整骨院に通うとしても、そのタイミングは、整形外科を受診し、医師が必要と認めた時です。
整骨院だけ通っていると、相手から治療費を支払ってもらえなかったり後遺障害認定を受けられなかったりする不利益を受ける可能性があります。
治療を継続する
通院を開始したら、治療を継続しましょう。
治療は基本的に「完治」または「症状固定」するまで続けなければなりません。
完治とは事故のケガが完全に治って元通りになること、症状固定とはケガが感知せず、これ以上治療をしても改善が見込めなくなることです。
症状固定すると、治療を継続しても意味がなくなるのでいったん治療を打ち切り、後は後遺障害認定の手続きを進めます。
以下では完治した場合と症状固定した場合に分けて、事故後の解決までの流れをみていきます。
ケガが完治した場合
示談交渉を開始する
ケガが完治した場合には、加害者や加害者の保険会社と示談交渉を開始します。示談交渉では以下のような内容について話し合って取り決めます。
- 事故の過失割合
- 損害賠償金の金額
賠償金の金額と過失割合が決まったら、既払い金などを差し引いて最終的な示談金額が決定します。
示談書を作成する
示談が成立した場合には、示談書を作成します。
一般的には保険会社が示談書を送付してくるので、被害者としては署名押印して返送するだけで済むケースが多数です。
示談金が振り込まれる
示談書を返送すると、だいたい1~2週間程度で保険会社から示談金が振り込まれます。
後遺症が残った場合
適切な治療を一定期間受けても、ケガが完治せず後遺症が残ってしまう場合もあります。
後遺障害等級認定を受ける
治療をしても完治せず後遺症が残った場合には、後遺障害等級認定を受けなければなりません。後遺障害等級認定とは、事故によって残った後遺症について正式に「後遺障害」と認定し、14段階の等級をつける制度です。
交通事故で後遺障害等級認定を受けると、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益が支払われます。
認定を受けられないケースと比べると大幅に受け取れる賠償金が増額されるので、被害者にとって後遺障害等級認定を受けるメリットは大きいといえるでしょう。
後遺障害等級認定を受ける手続きは2種類
後遺障害等級認定は、相手の自賠責保険へ請求して手続きを進める必要があります。
相手の保険会社に手続きを任せる事前認定の方法と、被害者自身が自分で手続きを行う被害者請求の方法があります。
事前認定よりも被害者請求の方が適切な等級が認定される可能性が高く、万全を期すためにも弁護士に依頼することをおすすめします。
等級認定に詳しい弁護士に依頼すれば、被害者に代わって資料を集めてくれますし、適切な方法で被害者請求を行ってもらえます。
相手方が任意保険に加入していない場合
事故の相手方が任意保険に入っていない場合、被害者は相手と直接交渉しなければなりません。
被害に遭ってケガをした場合の賠償金については自賠責保険へ請求し、不足する部分は加害者本人へ直接請求する必要があります。
事故の相手本人に連絡を入れて賠償金について話し合いを進め、示談を成立させましょう。
示談が整ったら示談書を作成します。
自分が被害者の場合
自分が被害者の場合には、示談書に記載した通りに相手から示談金を受け取ったら、交通事故問題が解決されます。
自分が加害者の場合
自分が加害者の場合、相手に賠償金を払わねばなりません。
なお加害者となった場合でも任意保険に入っていれば、被害者側との示談交渉や賠償金の支払いは任意保険会社が行ってくれます。加害者になったときの負担が大幅に軽減されるといえるでしょう。
電動キックボードを運転する場合、万が一の事態に備えて任意保険に入っておくべきです。
ひき逃げや当て逃げに遭った場合
事故の相手が逃げてしまい、ひき逃げや当て逃げの被害に遭った場合、まずは加害者を特定しないと加害者側への損害賠償ができません。
その場合、以下のような対処方法があります。
政府保障事業を利用する
政府保障事業を利用すると、自賠責保険に相当する金額の賠償金を受け取れます。
自分の人身傷害補償保険や無保険車傷害保険を利用する
人身傷害補償保険を利用すると、保険会社基準で治療費や休業損害、慰謝料などを払ってもらえます。
人身傷害補償保険に入っていない場合でも無保険車傷害保険を利用すると、後遺障害や死亡に対する補償を受けられます。
電動キックボードの事故で請求できる損害賠償の項目
電動キックボードで交通事故に遭った場合、事故の相手(加害者)にはどういった項目の損害賠償請求ができるのでしょうか?
電動キックボードの事故でも、相手に請求できる損害賠償金の項目他の交通事故と同じです。
具体的には以下のような賠償金を請求できます。
人身損害(傷害)に関する損害賠償金
後遺障害に関する損害賠償金
死亡に関する損害賠償金
上記以外にも個別の事案ごとに請求できる賠償金の種類があります。
詳細は弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。
電動キックボード事故の過失割合
電動キックボードで交通事故が起こった場合、お互いの過失割合はどの程度になるのでしょうか?
過失割合とは、交通事故の責任が事故当事者のどちらにどれくらいあるかを数値割合で示したものをいいます。
被害者の過失割合が高いと、その分加害者に請求できる賠償金額が減ってしまいます。示談交渉の際などには、自分の過失割合を不当に高くされないように注意が必要といえるでしょう。
基本的には原付の過失割合に近くなる
道路交通法上、電動キックボードは原付に近い扱いをされます。よって過失割合についても基本的には原付やバイクの事故のケースと同様に算定されると考えて良いでしょう。
ただし以下のような事情があるので、原付きと全く同じにはならないとも考えられます。
法改正により特定小型原動機付自転車となった
2023年7月の法改正により、電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」という新たな種類の車両に分類されます。
これにより、電動キックボードは純粋な原付ではなく、より自転車に近い取り扱いとなります。よって原付の場合よりも電動キックボードの場合の方が、電動キックボード側の過失割合が低くなる可能性があると考えられます。
一般的に、過失割合算定の際には交通弱者であればあるほど過失割合が低くなる傾向があるためです(自転車の場合、原付やバイクより全体的に過失割合が低くなります)。
過失割合の基準は裁判例の蓄積で決まる
過失割合の算定基準は、過去の裁判例を参考にして決定します。電動キックボードの場合、まだ道路交通法上での取り扱いが決まってからの日数が少なく裁判事例が極端に少ないといえるでしょう。
これから裁判例が蓄積されて、はじめて詳細な過失割合の算定基準ができ上がっていくものと考えられます。
電動キックボードの事故の過失割合はもめやすい
現時点において、電動キックボードの事故では被害者と加害者が話し合いによって過失割合を算定しなければなりません。
明確な基準もなく、もめやすい傾向が強いといえるでしょう。
相手ともめそうな場合や適正な過失割合がわからない場合には、弁護士に相談してみるようおすすめします。
電動キックボードでの交通事故は弁護士法人山本総合法律事務所にご相談ください
電動キックボードについてはその取扱が原付と自転車の中間のようになっており、過失割合の算定基準もいまだ明確ではありません。
任意保険に入っていないケースもあり、被害者と加害者がもめてしまう例が多々あります。
電動キックボードの事故では弁護士によるサポートを要する場合が多いといえるでしょう。
なお、「弁護士に相談するとお金がかかるんでしょ?」とご心配な方もいらっしゃるでしょう。
ご自身の任意保険に弁護士特約が付帯していれば、弁護士費用は300万円まで保険会社が支払ってくれます。
弁護士特約はない場合でも、当事務所では交通事故被害者の相談は無料としております。さらに、成功報酬制となっておりますので、お客様の持ち出しが発生する事はありません。
群馬の山本総合法律事務所では、交通事故の被害者サポートに力を入れて取り組んでいます。車やバイク、原付、自転車、歩行者などあらゆるタイプの交通事故案件を多数解決して参りました。
群馬県やその近辺で電動キックボードによる交通事故に遭われてしまったら、お気軽に山本総合法律事務所の弁護士までご相談ください。