執筆者弁護士 山本哲也
個人事業主が交通事故に遭った場合の後遺障害逸失利益はどのように計算する?
1.確定申告所得額が基本となる
後遺障害逸失利益の算定にあたっては、基礎収入額がいくらかを認定することが必要になります。
会社員であれば給与額にもとづいて基礎収入額を認定することが出来るので問題は少ないのですが、個人事業主の場合ですと基礎収入額をどのように認定するかが問題になります。
確定申告所得額が基礎となる
個人事業主の基礎収入の原則としては、確定申告所得額を基礎とします。
そして通常ですと、交通事故にあう前年度の確定申告の所得額が基礎収入となり、青色申告控除をされている場合には、控除額を引く前の金額が基礎収入となります。
家族経営の場合
家族で経営をされている方も多いかと思いますが、所得が資産による収益や家族の労働などを総体としている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって計算されています。
実際の収入と申告額が異なる場合
実際の収入金額が申告した所得額と異なっている場合には、その実際の収入額を立証することが可能であればそれが基礎収入になります。
たとえば、確定申告の所得額を上回る収入があった場合にはその実際に得た収入が立証されることによって、基礎収入として認定されるということです。
しかしこの点につきましては、示談交渉段階でもかなり確実性のある立証を求められますので、簡単にこの主張が通るというわけではありません。
このようなケースの場合、交渉で話がまとまらず、裁判になる可能性も考えられますが、更に確実性のある証拠が必要になるでしょう。
確定申告をしていなかった場合
確定申告を一切していなかった場合でも直ちに基礎収入がゼロとされ、後遺障害逸失利益もゼロになってしまうかというと、そうではありません。
他の証拠により相当の収入があったと認められるときは、賃金センサスの平均賃金額を参考にして基礎収入額を認定する例が多いようです。
2.具体的な計算方法
事故の前年度の申告所得額が500万円である個人事業主が交通事故に遭ってむち打ちとなり、後遺障害として14級が認定された場合に、逸失利益がどのように計算されるかを簡単に見てみたいと思います。
計算式
逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」によって算定されます。
今回の例では、基礎収入は500万円です。
また、後遺障害として14級が認定された場合、労働能力喪失率は5パーセント、労働能力喪失期間は5年とされることが多いです。
労働能力喪失期間5年に対応するライプニッツ係数を4.5797とすると、逸失利益は下記の通りとなります。
- 500万円 × 5パーセント × 4.5797=114万4925円
3.まとめ
以上の通り、後遺障害逸失利益を算定するには基礎収入額がいくらなのかを算定する必要があります。
個人事業主の場合、交通事故にあう前年度の確定申告の所得額が基礎収入とされるケースが一般的です。
家族経営のケース、実際の収入と申告額に相違がある、確定申告を行っていない場合などはケースに応じて基礎収入額が算定されます。
ご自身の基礎収入額に不安があるという方は弁護士などの専門家に一度相談されることをお勧めします。