執筆者弁護士 山本哲也
学生が交通事故に遭った場合、学費やアルバイトの補償はされるの?
交通事故の被害者が学生である場合、休業損害が認められるかどうかが問題となることがあります。
この点については、学生は普通、仕事に就いていませんので、交通事故で被害者となり働くことができない状態になったとしても収入の減少が無く、休業損害は認められない(休業損害がない)という場合が多いと思います。
もっとも、学生であっても、アルバイトなどで働いている方もいます。このような方が交通事故で怪我をした場合、交通事故での怪我が原因でアルバイトなどを休まなければならず、アルバイトなどによる収入が減少することが考えられます。この場合、事故のために実際に収入が減ったと言えれば、休業損害が発生していることになるのです。
ただし、このように学生のアルバイトなどの収入についての休業損害を求める場合については、正規雇用されている方の休業損害とは異なる点がありますので、注意が必要です。
例えば、休業損害が認められるためには、交通事故にあわなければその期間働き収入を得ることが出来たということが前提になります。この点、正規雇用されている方であれば、事故がなければ仕事を休むことなく働いて収入を得ることができたと言えるのが通常です。
一方、アルバイトの場合には、そのアルバイトを継続することが可能であり、継続する予定であったと認められることが、休業損害の請求のために必要になると考えられるのです(例えば、事故前に短期間のアルバイトをやっていたが、事故の後の期間はもともとアルバイトをするつもりはなかったという場合、事故にあってもあわなくても事故の後の期間はアルバイトの収入を得ることはなかったということになりますので、休業損害は認められないということになります)。
また、学生のアルバイトの場合、事故がなければ一定期間アルバイト収入を得たはずだと認められたとしても、正規雇用の場合と異なり、収入が安定しなかったと考えられる場合があります。例えば、ある時期は頻繁にアルバイトをする一方で、ある時期は学業や行事のためにあまりアルバイトができないというように、収入が安定しないケースも考えられます。そのような場合には、アルバイトによる休業損害の額が控え目に算定されることも考えられます。また、会社員の方の場合、事故前3か月間の給与をもとに休業損害を算定することが一般的ですが、学生の方のアルバイトの場合には、月ごとに収入のバラつきが大きいことが多いため、事故前6か月間や事故前1年間のアルバイト収入をもとに休業損害を算定することもあります。
また、交通事故の被害にあった学生が、治療が長期間にわたる等の理由で、アルバイトもできずに、さらには、十分な就職活動ができない、就労先が見つかっていたものの怪我が原因で就労開始日に勤務できない等の理由で、就職が遅れてしまうことがあります。
このように、交通事故の怪我が原因で就職が遅れた場合、遅れることなく就職すれば得られたはずの給与額が休業損害として認められます。
このように、学生が、交通事故が原因でアルバイトを休んだ場合や、就職が遅れた場合について、休業損害が認められることがあるのです。
また、学生特有の問題として卒業や留年という問題があります
休業損害とは別の話になりますが、学費や家賃等の損害については、事故と因果関係があると認められれば、つまり事故によってその損害が生じたと認められれば、請求することが可能です。
学生ですが、交通事故で怪我をして、その治療のために授業に出られなかったことが原因で留年することになってしまいました。留年したことによる損害を請求できますか?
交通事故の被害者が学生である場合には、治療のための入院期間が長引くと、例えば出席日数が足りないことから留年してしまうことも考えられます。
このような場合、留年したことによる損害としては、いくつかのものが考えられます。
まず、留年することで卒業が遅れたために、学費や家賃等の出費が強いられてしまうという場合が考えられます。学費や家賃等の損害については、事故と因果関係があると認められれば、つまり事故によってその損害が生じたと認められれば、請求することが可能です。
もっとも、事故による出費と認められた場合でも、常識に照らして相当と言えるような範囲に限って請求が認められることになります。
そして、留年した分、就職の時期も遅れるのが通常ですので、就職の遅れによって本来ならば得られたはずの収入を失ったと言える場合もあります。そのような場合は、休業損害又は逸失利益として、働いて得られるはずだった利益を請求することが考えられます。この場合も当然、事故と因果関係があると認められることが必要です。
また、事故によって留年せざるを得なくなったことで、慰謝料を請求することも考えられます。慰謝料とは、苦痛や悲しみといった精神的な損害に対する賠償です。
もっとも、交通事故の場合の慰謝料の金額については、ある程度画一的な基準があり、交通事故の被害者が一般的に受けるはずの苦痛や悲しみは、一般的な基準の金額に全て含まれていると考えられています。そのため、一般的な場合を上回る苦痛や悲しみがあると言えるような特別な事情があると言えない限り、慰謝料の上乗せは認められません。
より詳しいことにつきましては、一度、交通事故の実務に精通した弁護士にご相談ください。