執筆者弁護士 山本哲也
交通事故で加害者以外に損害賠償を求められる相手とは
交通事故にあった場合、損害賠償を求める相手としてすぐに思いつくのは、交通事故の加害者です。 しかし、以下で説明しますように、場合によっては、加害者本人以外に対しても損害賠償を求めることが出来る場合があります。
- 会社の従業員である加害者が業務中に事故を起こしたような場合は、雇い主である会社に対しても損害賠償を請求できる場合があります。
- 自動車の設計上や製造上の欠陥によって事故が起きた場合は、自動車メーカーなどに対して製造物責任を追及できる可能性があります。
- 国道の設置や管理などに問題があり事故が発生したような場合や、公務員である加害者が職務の執行中に発生させた事故である場合は、国や公共団体に対して損害賠償を求めることができる可能性があります(国家賠償請求)。
公務員が起こした交通事故について、公務員が交通事故の加害者である場合、国家賠償法という法律が適用される場合があります。国や公共団体に対して損害賠償請求するための根拠としては、国家賠償法(国賠法)1条の責任又は自動車損害賠償保障法(自賠法)3条の責任を追及することが考えられます。
以下で、具体的にどのようなケースであれば請求が可能かを解説します。
請求可能なケースと注意点(国家賠償法)
それでは、どのようなケースであれば請求できるのかを具体的に見ていきましょう。
請求可能なケース
まず国家賠償法の「公権力の行使」という要件に関しては、例えばパトカー、消防車、救急車等による交通事故は「公権力の行使」に当たります。
一方、市営バスが営業中に交通事故を起こした場合のように、民間の会社と全く異ならないような活動については、「公権力の行使」に当たらず、国賠法1条による責任追及はできないことになります。
また、「職務を行うについて」という要件は、実際にそれが公務員の職務である必要はなく、外形的に職務と見える場合には満たすことになります。
そして、加害者の公務員に「故意又は過失」があったといえれば、国賠法1条によって、加害者の公務員が属する国又は公共団体に損害賠償請求することが可能です。
注意点
注意点としては、以上のように国家賠償法1条が適用される場合には、国又は公共団体に損害賠償請求できますが、その公務員個人には請求できず、損害賠償責任を負うのは国又は公共団体だけということになります。
請求可能なケースと注意点(自賠法)
国賠法1条の他にも、自賠法3条が定める運行供用者責任に基づいて、国又は公共団体に損害賠償請求することも考えられます。
請求可能なケース
こちらの請求についても、認められるかどうかは具体的事情によって異なりますが、加害者の公務員が運転していた車両が国又は公共団体の所有である場合など、国又は公共団体が「運行供用者」に当たる可能性があります。
その場合、国又は公共団体の側が免責事由を証明できなければ、国又は公共団体に対する請求が認められることになります。
注意点
この請求が認められるためには人身損害があること(生命又は身体に被害を受けたこと)が前提になりますので、物損被害だけを受けた場合には認められません。
- 交通事故の加害者と車の所有者とが異なる場合、車の所有者が「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当すれば、車の所有者に対しても、損害賠償を求めることができます(運行供用者責任)。
詳しくは運行供用者責任とは」をご覧ください。 - 加害者が未成年であった場合には、親に監督義務違反があったとして、親(親権者)に対して損害賠償を請求できる可能性がありますが、子供が交通事故を発生させる具体的な危険性があるにもかかわらず、親がこれを放置したことによって交通事故が発生したというような場合でなければ、親の責任は認められないとされています。
未成年者が交通事故の加害者になるということもあります。そのような場合、全ての場合ではありませんが、親に対しても損害賠償請求できる場合があります。
民法709条に基づいて、親が子を監督するという義務に違反したとして、親に対して損害賠償請求する方法があります。未成年者が責任無能力者である場合には民法714条に基づいて親の責任を追及することが可能ですが、自転車やバイクを運転できる年齢であれば責任無能力者と考え難い場合も多いので、民法714条ではなく民法709条の責任が問題になります。
また、自動車損害賠償保障法3条に基づいて、親の運行供用者責任という責任を追及することも考えられます。この責任は、物損には適用がなく、人損の場合にだけ成立し得るものです。
この責任を負うのは「運行供用者」ですが、加害者の親が運行供用者に当たる場合があります。
例えば、自動車の所有者は基本的に運行供用者に当たりますので、子が事故時に乗っていたのが親の自動車であれば、親は運行供用者に当たります。一方、その自動車が子の所有でも親の所有でもなく、第三者から借りたものだった場合、親は運行供用者に当たらないとされることが多いようです。また、子がその自動車を所有していた場合には、扶養関係や、親がその自動車の購入費や維持費を負担していたか等、様々な事情から、親が運行供用者に当たるのかが判断されます。
そして、親が運行供用者に当たれば、親の側で免責事由を証明できない限り、親に対して損害賠償請求できることになります。
以上のように、様々な事情から、未成年の加害者の親に対しても損害賠償請求できるのかが決まることになります。
なお、親が運行供用者として自動車損害賠償保障法3条の責任を負う場合には、親は損害を賠償する責任を負うことになりますが、これは親の子供に対する監督義務違反があったかどうかとは別の問題です。