【交通事故】後遺障害 9 級の賠償金の相場は?慰謝料・逸失利益の計算を解説
- 執筆者弁護士 山本哲也
交通事故による怪我が完治せずに、後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級認定の申請手続きをすることにより、後遺症の内容や程度に応じた等級認定を受けられる可能性があります。
では、後遺障害9級が認定される後遺症にはどのようなものがあるのでしょうか。また、後遺障害9級が認定された場合の慰謝料や逸失利益はどの程度になるのでしょうか。
今回は、後遺障害9級の賠償金の相場と慰謝料・逸失利益の計算方法などについて、わかりやすく解説します。
目次
後遺障害 9 級とは
交通事故によって怪我をした場合は、病院での治療を行うことになります。しかし、怪我の内容や程度によっては、治療を継続したとしても症状の改善が見込めない状態になることがあります。このような状態を「症状固定」といいます。
症状固定時に残存している後遺症については、後遺障害等級認定の申請をすることで、後遺症に応じた等級認定を受けることができます。後遺障害等級は、1級から14級まで分かれておりますが、そのうちの1つが後遺障害9級です。
後遺障害 9 級があてはまる後遺症
後遺障害9級があてはまる後遺症には、どのようなものがあるのでしょうか。以下では、後遺障害9級の内容と認定基準を紹介します。
等級 | 認定基準 |
9級1号 | 両眼の視力が〇・六以下になったもの |
9級2号 | 一眼の視力が〇・〇六以下になったもの |
9級3号 | 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
9級5号 | 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの |
9級7号 | 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
9級8号 | 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
9級9号 | 一耳の聴力を全く失ったもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
9級12号 | 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失ったもの |
9級13号 | 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの |
9級14号 | 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの |
9級15号 | 一足の足指の全部の用を廃したもの |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの |
後遺障害 9 級の慰謝料の相場
後遺障害等級認定を受けられれば、後遺障害慰謝料を請求することができます。以下では、後遺障害9級の後遺障害慰謝料の相場について説明します。
慰謝料の算定基準は3種類ある
慰謝料の算定基準には、以下の3種類の基準があります。
・自賠責保険基準
・任意保険基準
・弁護士基準(裁判所基準)
慰謝料を計算する際には、どの算定基準を用いるかによって、金額が大きく変わってきます。このうち、最も慰謝料が高額になるのが弁護士基準で、反対に最も低額になるのが自賠責保険基準です。任意保険基準は、保険会社が独自に定める基準で、公開されていないため詳細は不明ですが、一般的には自賠責基準と同程度か若干上乗せした程度とされています。
各算定基準に基づく慰謝料相場
後遺障害9級が認定された場合、各算定基準で後遺障害慰謝料の金額には、どの程度の違いが生じるのでしょうか。以下では、自賠責保険基準と弁護士基準における後遺障害9級の慰謝料相場を紹介します。
自賠責保険基準
自賠責保険基準の後遺障害慰謝料の相場は、249万円になります。ただし、2020年3月31日以前の事故の場合には、245万円が後遺障害慰謝料の相場になります。
弁護士基準
弁護士基準の後遺障害慰謝料の相場は、690万円になります。自賠責保険基準と比べると2倍以上もの差があることがわかります。
後遺障害 9 級の逸失利益の計算方法
後遺障害9級の逸失利益は、どのように計算するのでしょうか。以下では、後遺障害0級の逸失利益の計算方法について説明します。
逸失利益の計算方法
逸失利益とは、交通事故がなければ本来得られたはずの収入のことをいいます。交通事故により後遺障害が残ってしまうと、労働能力が制限される結果、将来得られるはずの収入が減ってしまうという損害が発生します。このような損害については、逸失利益として請求することができます。
後遺障害が残った場合の逸失利益は、以下のような計算式により計算をします。
【計算式】
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
各項目の説明
逸失計算をするには、上記計算式の各項目を理解する必要があります。
基礎収入
基礎収入とは、原則として事故前年の収入が基準になります。たとえば、会社員の場合には、事故前年の源泉徴収票の「総支給額」が基礎収入になります。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害が残ったことにより労働能力がどの程度低下したのかを表す数値です。労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて定められており、後遺障害9級の場合、35%が労働能力喪失率になります。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、労働能力喪失による収入減少がいつまで継続するかの期間です。労働能力喪失期間は、症状固定時から67歳までの期間になりますが、症状固定時の年齢によっては以下のような例外があります。
- 18歳未満の子ども……18歳から67歳までの期間
- 大学生……大学卒業時から67歳までの期間
- 67歳を超える高齢者……平均余命の2分の1
- 67歳までの期間が短い人……「症状固定時から67歳までの期間」と「平均余命の2分の1」のうち、いずれか長い方
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための数値です。後遺障害逸失利益は、将来の収入減少分を前倒しで一括支払いを受けることになりますので、受取予定額から将来発生する利息を控除して計算する必要があります。
後遺障害 9 級の認定のポイント
後遺障害9級の認定を受けるためには、以下のようなポイントがあります。
症状固定まで治療を継続する
後遺障害等級認定を受けるためには、医師から症状固定と診断されるまで治療を継続することが重要です。自分の判断で治療を中断してしまうと、後遺症が残ったとしても、事故との因果関係を否定されてしまい、後遺障害等級認定を受けることができなくなってしまいます。
また、保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがあるかもしれませんが、医師が治療の継続が必要と判断しているのであれば、治療費の支払いを打ち切られた後も引き続き治療を行うようにしましょう。
後遺障害診断書を正確に記載する
後遺障害等級認定の手続きは、基本的には書面審査になりますので、後遺障害診断書の記載内容が重要になります。そのため、適正な後遺障害認定を受けるためには、信頼できる医療機関を受診し、後遺障害診断書を正確に記載してもらうようにしましょう。
また、後遺障害の部位や程度によって、後遺障害診断書の記載項目が変わってきますので、不安な方は、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
後遺障害 9 級の解決事例
当事務所における後遺障害9級の解決事例を紹介します。
高次脳機能障害で後遺障害9級が認定され、約2600万円が補償された事例
①ご依頼の経緯
依頼者がバイクに乗って交差点を通過しようとしたところ、右方からきた加害者の運転する自動車と衝突する事故に遭われました。
事故直後に適正な後遺障害等級認定が受けられるか不安に感じ、当事務所にご相談にこられました。
通院状況や入院状況などを聞き取っていくと、入院がわずか3日間にすぎず、病院としても依頼者の症状を比較的軽微に見ている傾向があったことから、適正な後遺障害の認定が受けられない可能性があると感じました。
そこで、当事務所としては、弁護士が介入する必要が高い事案と判断し、その旨説明の上、当事務所にご依頼となりました。
②当事務所が対応した結果
まずは、診断書の作成のために、どの医師が一番依頼者の症状を詳細に書いてもらえるかを選定し、その医師に後遺障害診断書を作成してもらいました。また、行っていない検査もあったことから検査も追加で行ってもらいました。その結果、高次脳機能障害として後遺障害9級が認定されました。
保険会社との示談交渉では、後遺障害逸失利益の部分で金額の乖離が大きく交渉が難航しました。しかし、現在の依頼者の仕事上の支障を詳細に記述した陳述書を保険会社に提出し、適正な後遺障害逸失利益の回収に成功しました。
20代男性が顔に傷跡が残ったことにより後遺障害9級が認定され、約1633万円が補償された事例
ご依頼の経緯
伊勢崎市在住の20代男性が家族の運転する車に同乗中に、センターラインオーバーで相手車両と衝突する交通事故に遭われました。
事故から約2ヶ月経ち、お仕事に復帰したタイミングで「症状固定や後遺障害のことについて相談したい」と当事務所にお問い合わせを頂き、当事務所での法律相談を経てご依頼となりました。
当事務所が対応した結果
当事務所で後遺障害申請を行ったところ、顔面に残った傷痕について、次の後遺障害等級が認定されました。
第9級16号(外貌に相当程度の醜状を残すもの)
その後、加害者の保険会社と示談交渉を行いましたが、後遺障害逸失利益の支払いが認められなかったため訴訟(裁判)による解決を図ることになりました。訴訟では、顔面に傷痕が残ったことによる仕事への支障や将来の転職活動への影響を具体的に主張したところ、後遺障害逸失利益を認める和解案が裁判所から提示されたため、和解により解決となりました。
肩関節の脱臼骨折等で併合9級が認定され、約3730万円が補償された事例
ご依頼の経緯
高崎市在住の50代(会社員)男性が、バイクで道路の左車線を走行していたところ、突然車線変更してきた相手車両と衝突する事故に遭われました。
被害者の方はバイクごと横転したため、鎖骨や肩甲骨、肋骨を骨折するなど大きな怪我を負われました。
入院や通院での治療やリハビリを続け、事故から約1年が経ち、症状固定が近づいてきたことから、後遺障害の申請を専門家に依頼したいということで、当事務所にお問い合わせ頂き、ご依頼となりました。
当事務所が対応した結果
当事務所の後遺障害申請サポートの結果、次の後遺障害等級が認定されました。
【併合9級】
- 肩関節の機能障害について10級10号(「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」)
- 鎖骨の変形障害について12級5号(「鎖骨に著しい変形を残すもの」)
- 肩甲骨の変形障害について12級5号(「肩甲骨に著しい変形を残すもの」)
- 肋骨の変形障害について12級5号(「肋骨に著しい変形を残すもの」)
また、その後の、保険会社との示談交渉では、裁判所基準の慰謝料額の100%の金額と労働能力喪失期間を67歳までとする逸失利益の支払いを認めさせることができました。