執筆者弁護士 山本哲也
運行供用者責任とは何ですか?
1.運行供用者責任とは
運行供用者責任とは、車を運転していた加害者だけでなく、「運行供用者」にも事故の被害者に対する損害賠償責任があるとされる制度です。
運行供用者は自賠法3条によって定められており、「その自動車の運行を支配または管理して、車の運行によって利益を得ている人」と規定されています。
具体的には次のような事故では、車の持ち主が運行供用者に当てはまる可能性があります。
- 人から借りた車で交通事故を起こした
- 運転代行業者が、客の車を運転中に事故を起こした
- バス、タクシー、営業車などが事故を起こした
上記の事故が起きた場合、運行供用者責任が認められれば、事故の加害者だけでなく運転供用者に対しても損害賠償請求ができるのです。
2.車を貸した友人が事故を起こしたら?
所有者が友人に1日使ってよいとの約束で自動車を貸して、その日の内に友人が交通事故を起こしたという場合、所有者にその自動車の支配が残っているとして、所有者が運行供用者に当たる可能性があるでしょう。
そして、運行供用者に当たる人が、自己及び運転者が自動車の運行に関して注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者の故意又は過失があったこと、自動車に構造上の欠陥又は機能上の障害がなかったことという免責事由を立証できない場合、運行供用者責任が成立し、生命又は身体の被害について損害賠償責任を負うことになります。
以上のように、友人に自分の自動車を貸した所有者は、その自動車によって生じた交通事故について、具体的事情によっては、被害者に対して損害賠償責任を負う場合があります。
3.会社の従業員が社用車を運転中に事故を起こしたら?
会社にも責任があるケース
従業員がマイカーを通勤だけでなく業務にも使っており、そのことを会社が積極的に認めていた場合は、会社の責任を問いやすいと言えます。
会社がマイカーによる通勤を積極的に指示ないしは奨励していたような場合には、交通事故について会社の責任を問える可能性があります。
会社には責任がないケース
従業員がマイカーを通勤にのみ使用して業務そのものには使用していない場合、会社の責任は認められにくい傾向にあると言えます。
会社がマイカー通勤を禁止しているにもかかわらず、マイカー通勤をして交通事故を起こした場合や、マイカー通勤自体を禁止していたわけではないが事実上黙認していたに止まる場合については、従業員の起こした交通事故につき会社の責任を問うことは一般的にはなかなか難しいと思われます。
このように、従業員がマイカーを通勤にのみ使用して業務そのものには使用していない場合、会社がマイカー通勤を積極的に認めていたというような事情がない限り、交通事故についての会社の責任は否定される可能性が高いと言えるでしょう。
3.下請人が請け負った仕事の最中に事故を起こしたら、元請人の責任は?
具体的な事情によっては、元請人が被害者に対して損害賠償責任を負う場合があります。
元請人が注文者から工事等の仕事を請け負った後、元請人からさらにその仕事の一部を下請人が請け負うという場合があります。そして、下請人がその工事などの仕事を行っている際に交通事故を起こして他人に被害を与えた場合、被害者としては、下請人だけでなく、元請人に対しても損害賠償請求したいと考える場合があります。
この点、法律上、元請人は下請人とは別の人格ですので、基本的には責任を負わないことになります。しかし、具体的な事情によっては、使用者責任又は運行供用者責任に基づいて、元請人も被害者に対して責任を負う場合があります。
元請人の使用者責任が成立するケース
まず、元請人の使用者責任(民法715条)が成立するためには、その交通事故が事業の執行についてなされたこと、元請人と下請人の間に使用関係があること、元請人による下請人に対する注文や指図に過失があること等、いくつかの要件を充たすことが必要です。
使用関係は、必ずしも雇用関係があることは必要ではなく、実質的な指揮監督関係があるかによって決まります。例えば、下請人が元請人の従業員とさほど変わらないような関係にあった場合には使用関係が認められ易いでしょう。
運行供用者責任が成立するケース
次に、運行供用者責任(自賠法3条)が成立するためには、元請人がその自動車の運行供用者に当たること、被害者がその交通事故により生命又は身体に被害を受けたこと(人損があること)等、いくつかの要件を充たすことが必要になります。
「運行供用者」という要件についていいますと、自動車の所有者は運行供用者に当たるとされることが多いですので、元請人がその自動車の所有者であった場合は運行供用者と判断される可能性が高いでしょう。
また、所有者でない場合に元請人が運行供用者に当たるかどうかは、下請人が元請人に専属するような関係があったか、元請人がその自動車の管理や保管にどの程度関わっていたか等、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。
元請人に責任が発生するかどうかはケースバイケース
以上のように、元請人の使用者責任又は運行供用者責任が成立するかどうかは、一概にはいえず、個別具体的な事情によって決まることになります。