執筆者弁護士 山本哲也
損害賠償の損益相殺について教えてください
1.損益相殺とは
損益相殺とは、不法行為の被害者がその同じ不法行為によって利益を受けた場合に、その利益を控除して損害額を算定することをいいます。
民法に規定が存するわけではありませんが、当然に予定されているものであり、民法709条の「損害」とは、損益相殺後の損害をいうと考えられます。
「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除する」(最大判平成5.3.24)とされています。
2.給付が控除される具体例
具体的には、以下の給付が控除の対象(=給付されない)となります。
①弁済等
- 損害賠償義務者による弁済
- 加害者が締結していた任意保険契約(対人賠償保険)に基づく支払
②自賠法によるもの
- 自賠責保険会社による損害賠償額の支払(自賠法16条)
- 政府保障事業による損害の填補額の支払(自賠法72条)
③各種社会保険給付
- 労災保険法による遺族(補償)年金、遺族(補償)一時金、遺族(補償)年金前払一時金
- 国家公務員災害補償法による遺族補償金
- 国民年金法による遺族基礎年金
- 厚生年金保険法による遺族厚生年金
- 国家(地方)公務員等共済組合法による遺族年金
- 国家公務員等退職手当法による退職手当
- 恩給法による扶助料ほか
④各種保険金(いわゆる保険代位が予定されているもの)
- 無保険車傷害保険金
- 人身傷害補償保険金ほか
3.過失相殺との関係性
また、賠償すべき金額を決定するに当たって過失相殺がされる場合に、これと弁済や損益相殺による控除のいずれを先に行うべきかが問題となります(いずれを先に行うかで、金額が異なってきます)。
この点、弁済や自賠責制度における損害賠償額の支払(自賠法16条)に関しては、過失相殺がされた後の金額から弁済額等を控除する(すなわち、過失相殺が先行する)ことに異論はありません(このことに伴って、過失相殺が主張されている事案では、既払いの損害項目についても、その具体的金額の主張・立証が必要となります)。
これに対し、各種社会保険給付に関しては、過失相殺と損益相殺のいずれを先に行うかについて、議論のあるところです。
例えば、労災保険等については、過失相殺が先行し(最判昭和55年12月18日)、健康保険・国民健康保険については、損益相殺が先行するとされています。
これらについては、各給付の性格や目的等によって、過失相殺と損益相殺のどちらを先に行うかが、判断されているといえます。