執筆者弁護士 山本哲也
友人や知人の車に無償で乗って(好意同乗)事故に遭った場合はどうなるのでしょうか。
1.好意同乗とは
運転者の好意で車に無償で同乗することを好意同乗と言います。
ある自動車に同乗していた人が、その自動車の運転者の過失によって交通事故に遭って怪我などの被害を受けた場合、同乗していた被害者は運転者に対して損害賠償請求できることになります。この際、被害者が運転者の好意により無償で乗せてもらうという利益を受けていたのだから、運転者に対して損害賠償できる額が減るのではないか、という議論があります。
好意同乗者が交通事故に遭った場合、慰謝料が減額されることがあるのです。
2.減額されるケース、されないケース
もっとも、単なる好意(無償)同乗のみを理由としては、減額はされません。
一般に、次に挙げるような当該同乗者の類型に応じ、①の場合には減額せず、②③の場合には、過失相殺の規定の適用(又は類推適用)により賠償すべき金額を減ずる取扱いがされています。
- 単なる便乗・同乗型
- 危険承知型 事故発生の危険性が高いような客観的事実(運転者の無免許、薬物濫用、飲酒、疲労等)が存在することを知りながらあえて同乗した場合
- 危険関与・増幅型 同乗者自身において事故発生の危険性が増大するような状況を現出させた場合(スピード違反をあおったような場合、定員超過の場合)
3.減額されない具体例
以下のように単なる好意同乗のみでは、減額をしない傾向にあります。
【裁判例】
・被害者(中学校校長)が、協議会参加のために、他の協議会参加者の運転する自動車に同乗し、高速道路で他車に追突されて受傷した場合につき、加害車両の運転者が、被害者らからの依頼を受けて加害車両を運転することになったとしても、被害者に事故発生の帰責事由は認められないとした。(大阪地判平17.9.21)
・被害者(大学生・女)が、加害車両運転者の速度超過とハンドル操作ミスにより横転、路外進出し、くも膜下出血等を負った事案につき、加害運転者とは、被害者の友人を介した友人関係で車に同乗していたにすぎず、被害者が加害運転者に対して運転を指導する立場にあったとはいえず、被害者の自宅まで送り届ける運転中とはいえ、時速115㎞の高速度で走行させる必要もなかったとして、被害者の行動が本件事故の原因に結びついたとはいえないことを理由に、損害の減額を否定した。(東京地判平24.9.24)
4.減額される具体例
危険な運転状態を容認又は危険な運転を助長、誘発した等の場合には、加害者の過失の程度等を考慮の上一定程度の減額を行うか、慰謝料額を減ずる扱いをすることがあります。
具体的には、被害者である同乗者に、運転の危険を承知していたとか、運転の危険を増幅したといった場合には、賠償額が減額されているのです。
例えば、飲酒運転や無免許運転と知りながら同乗した場合、シートベルトをあえて着用していなかった場合等には、賠償額が減額される可能性があります。
【裁判例】
・被害者(女・ホステス)が加害者運転の車両に同乗していた際、直進した訴外車両と右折した加害車両が衝突した事故につき、加害者を呼び出して食事をした後カラオケに行き、加害者が飲酒していることを認識して同乗したこと、加害者は本件事故への飲酒の影響を否定していないことなどを理由として、15%の減額を認めた。(名古屋地判平20.2.13)
・被害者が、仲間の一人が窃取した車であることを知りながら友人と交代で運転し、友人が運転していたところ、アイスバーン路面でスリップし、街路灯に衝突して死亡した事故につき、互いに無免許であることを認識して交代運転したことから、過失相殺の趣旨を類推して損害の20%を減額した。(札幌地判平13.10.19)
より詳しいことにつきましては、交通事故の実務に精通した弁護士にご相談ください。