執筆者弁護士 山本哲也
労災保険と自賠責保険の関係について
1.特別支給金は原則として損害額から控除されない
労災保険法で規定されている保険給付は、原則として損害額から控除されますが、休業特別支給金等の「特別支給金」については損害額から控除されません。
労災保険とは
労災保険とは、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく制度で、業務上災害又は通勤災害により、労働者が負傷した場合や疾病にかかった場合、障害が残った場合、死亡した場合等において、被災した労働者又はその遺族に対し法律上定められた給付を行う制度のことをいいます。
この点、通勤中に交通事故の被害に遭った場合には、労災保険給付を受けることができ、例えば、通勤中の交通事故により、業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けられない日が4日以上続いた場合には、休業給付を受けることができます。具体的な手続きとしては、事業主及び診療担当医師の証明を受けて、被災労働者の所属する事業場の所轄労働基準監督署長に提出することが必要になります。
通常、労災保険の給付は損害額から控除される
ただ、労災保険法で規定されている保険給付は、原則として、相手方に請求できる損害額から控除されます。これは、労災保険法により、保険者である国が、相手方に対する損害賠償請求権を取得することになっているため、仮に、損害額から労災給付分が控除されないとした場合には、相手方が被害者及び国に対して重複して支払うことになるためです。
なお、休業特別支給金(休業給付に加算される金員)等の「特別支給金」については、前述した休業給付の場合と異なり、保険者である国が被害者の代わりに損害賠償請求権を取得するといった規定がないため、損害額から控除されないものと考えられています。
2.交通事故に遭ったら労災保険を使うべき?
では、損害賠償をや休業特別至急金が貰えるのに、交通事故に遭った際には保険を優先的に利用すべきなのでしょうか。
結論から言うと、交通事故の被害に遭って怪我の治療を受ける場合、健康保険や労災保険を使った方が良い場合があります。
健康保険や労災保険を使うべきケース
交通事故の被害に遭って怪我の治療を受ける場合には、健康保険を使うことができます。また、その交通事故が勤務中あるいは通勤途中のものであった場合には、労災保険を使うことが可能です。そして、健康保険や労災保険を、交通事故による怪我の治療に使うことには、次のようなメリットが存在します。
まず、ご自身にも過失があって過失相殺がされる場合にメリットがあります。
その交通事故が生じたことについて、加害者に一方的に過失がある場合もありますが、逆にお互いに過失があるという場合もあります。そのような場合、例えば加害者と被害者の過失が9:1ならば、被害者に生じた損害額のうち1割は自分の負担になります。この点は、治療費についても当てはまります。
このように、自分の過失が全くないという場合を除くと、被害者も損害の一部を負担しなければなりませんので、損害の一つである治療費を減らしておいた方がメリットがあることになります。そのため、健康保険や労災保険を使って、治療費を抑えておいた方が良いといえます。
自賠責保険と補償限度額との関係
また、自賠責保険の補償限度額との関係でも、メリットがあります。
自賠責から支払われる金額には限度額が決まっています。具体的には、傷害による損害の限度額は120万円、後遺障害による損害の限度額は等級に応じて75万円~3000万円と決まっています。例えば、相手方が任意保険に入っておらず資力が十分でない場合等には、被害者としては自賠責保険から補償を受けることになります。
したがって、健康保険や労災保険を使って治療費を抑えておいた方が、自賠責保険の限度額を超えた分を自己負担するというリスクを減らせることになります。
3.できる限り労災保険や健康保険での治療がおすすめ
以上のように、健康保険や労災保険を治療の際に使っておくことは、メリットがある場合があります。一方、それによるデメリットは特にありませんので、できる限り健康保険や労災保険を使って治療を受けた方がよろしいでしょう。
より詳しいことにつきましては、一度、交通事故の実務に精通した弁護士にご相談ください。