執筆者弁護士 山本哲也
労働者と自営業の休業損害の違いについて
交通事故の被害者が怪我をしてしまい、治療のために働くことができず、収入が減少した場合には、「休業損害」として保険会社に賠償請求ができます。 休業損害を受け取るためには、収入が減少したことを証明する必要があり、給与所得者、事業所得者(自営業者)で用意する資料に違いがあります。
1.休業損害を受け取るためには収入減少の証明が必要
休業損害とは
交通事故によって怪我をしてしまい、入院や通院のために仕事を休まざるを得ない状況になることもあります。その場合、怪我によって休業したために減少した収入を「休業損害」として保険会社に請求することができます。
休業損害を受け取るためには?
休業損害を受け取るためには、事故によって収入が減少したことを証明する必要があります。
具体的には、収入の減少を証明できる資料を提出する必要があり、何が必要かは給与所得者と事業所得者(自営業者)により異なります。
2.給与所得者の場合
源泉徴収票と雇用主が作成する休業損害証明書が必要
給与所得者の場合は、前年度の源泉徴収票と雇用主が作成する休業損害証明書(書式は保険会社から受け取れます)を用意し、保険会社に提出することになります。
源泉徴収票が取得できない場合には、事故前3ヶ月分の給与明細や役所に課税証明書を発行してもらうなどの方法でも可能なケースもあります。
また、休業損害の具体的な計算方法は、給与所得者について、現在の実務上は、「基礎収入」に「休業期間」を乗じた金額が認められています。
この点、「基礎収入」とは、事故前の収入のことであり、現在の実務上は、基本的に勤務先に休業損害証明書を作成してもらい、記載された事故前3か月間の収入をもとに1日あたりの収入を計算することによって算出します。
そして、休業期間については、基本的に、実際に交通事故による受傷を原因として休んだ日数となります。
有給を使った場合
ただし、有給休暇を利用して休んだ場合には、休業期間中にも収入があるため現実の収入減はありませんが、本来自由に使えるはずの有給休暇を事故による負傷が原因で消費したといえることから、現在の実務上、有休休暇を利用して休んだ期間についても休業損害の対象となる休業期間とされます。
休業損害が認められる期間
なお、休業損害は、最大でも傷害が治癒、または症状固定日までの期間について認められます。交通事故の被害に遭われた方の中には、症状固定後にも、後遺障害が残った等の理由により休業される方もいらっしゃるかと思いますが、この場合には、症状固定後の休業補償については後遺障害逸失利益の問題として扱われます。
3.事業所得者(自営業者)の場合
前年度の確定申告書の写しや課税証明書が必要
事業所得者(自営業者)の場合には、所得の証明として前年度の確定申告書の写しや課税証明書を保険会社に提出することになります。
基礎収入額は、通常、事故前年の確定申告所得額によって認定します。なお、青色申告控除がなされている場合は、同控除額を引く前の金額を基礎とします。
事業所得者とは
事業所得者とは商・工業、農林水産業、サービス業、その他いわゆる自由業(開業医、弁護士、著述業、プロスポーツ選手、芸能人、ホステスなど報酬・料金等によって生計を営む者)などに従事する者で、個人名で事業を営んでいる者をいいます。
計算方法
計算方法は事故前の収入(基礎収入)の日額×事故発生日から症状固定日前の休業日数で算定されます。
基礎収入額は、通常、事故前年の確定申告所得額によって認定します。なお、青色申告控除がなされている場合は、同控除額を引く前の金額を基礎とします。
確定申告を上回る収入(所得)があったとする主張自体が否定されるわけではなく、現実の収入状況が立証されればその金額に応じた損害算定が行われます。しかし、裁判例の傾向は、かなりの確実性がある立証を求める傾向にあるので、確定申告額に基づかない主張が採用されるのは容易ではありません。
なお、収入が申告額より多いという主張とともに経費の水増し・家事費用のつけ込み(支出部分は申告書の記載額より小さいので所得は申告内容より大きくなる)が主張されることもありますが、これも同様に考えられます。その場合でも経営の状況、家族生活状況などから、賃金センサスなどを参考に、申告額を上回る基礎収入額を認定する例もあります。申告額の収入では生活を維持するのが困難と思われるような事例では、このような取扱いをする例が多いです。
確定申告をしていないケース
また、確定申告を全くしていない場合であっても、直ちに無収入と推定して休業損害が否定されるわけではありません。相当の収入があったと認められるときは、賃金センサスの平均賃金額などを参考に適宜基礎収入額を認定することがあります。ただし、領収書や帳簿などによって実収入を証明する必要があります。
4.休業損害についてのお悩みは専門家へ
ここでは、代表的な証明書類を記載しましたが、事情によっては他の書類で証明ができる事も考えられます。
ご自身の休業損害はどの程度請求できるのか、より詳しいことをお知りになりたい方は、専門的な知識を有する弁護士等に相談することをおすすめします。