執筆者弁護士 山本哲也
このような場合、損害賠償額(慰謝料)を請求または増額できるのでしょうか?
1.従業員が交通事故に遭った事が原因で、会社に大きな損害が発生したケース
従業員の一人が交通事故に遭い、長期の入院を余儀なくされ、その従業員が担当していた大きなプロジェクトが失敗に終わり会社に大きな損害が生じてしまいました。このような損害についても、交通事故の加害者に対して賠償を求めることはできるのでしょうか。
会社の規模によっては請求可能
「企業損害」については、原則として損害賠償の対象とならないとされていますが、企業規模が零細で、会社の事業活動が交通事故に遭った者の事業活動と同じと評価できる場合には、損害賠償の対象となることもあるとされています。
企業損害とは
会社の中核をなす人間が交通事故で怪我をして休業したことにより会社に生じた損害のことを「企業損害」ということがあります(事故に直接遭った者以外に生じた損害であることから「間接損害」と呼ばれることもあります)。
「企業損害」については、原則として損害賠償の対象とならないとされていますが、企業規模が零細で、会社の事業活動が交通事故に遭った者の事業活動と同じと評価できる場合には、損害賠償の対象となることもあるとされています。
企業損害が損害賠償の対象となるケース
例えば、会社形態を取っているが、従業員が全くおらず、経営者一人で事業の全てを行っており、会社の事業が経営者個人の事業と同視できる場合に、その経営者が交通事故に遭い、会社に損害が生じたという場合は、会社の損害についても加害者に損害賠償を求めることが出来る可能性は高いと考えられます。
ご相談のケース
これに対して、今回のケースのような場合ですと、交通事故に遭った従業員の方が会社の中核をなす方であったとしても、会社の事業が事故に遭った従業員の方の事業活動と同じと評価することは困難ですので、仮にプロジェクトが失敗して会社に損害が生じたとしても、この損害について加害者に損害賠償を求めることは難しいと思われます。
2.妊娠中の交通事故により流産・死産したケース
妊娠中の交通事故により、流産したり、死産となってしまった場合、慰謝料は増額されるのでしょうか。
慰謝料の金額は増額される
妊娠中に交通事故の被害に遭われた方の中には、事故時の受傷や衝撃の影響等が原因で、死産あるいは流産に至ってしまう方もおられます。
慰謝料とは、苦痛や悲しみ等の精神的な損害に対する賠償ですが、このように死産・流産に至ったことによる苦痛という精神的損害は、通常の傷害慰謝料などによってまかなわれるものではないと考えられます。
死産・流産のケースでは慰謝料が上乗せされる
実務では、死産・流産に至った場合には、通常の場合と異なり、死産・流産に至ったことに基づく慰謝料が別途発生する扱いとなっており、慰謝料の金額はその分増えることになります。
金額の目安
自賠責保険においては、妊娠月数(妊娠していた期間)に応じて慰謝料の金額の目安が定められています。これによれば、妊娠月数が長いほど慰謝料の金額が多くなり、その金額は30万円~80万円とされています。
また、裁判になった場合についてどれくらいの金額が認められるかという点については、妊娠月数の長さだけでなく、その他の様々な具体的事情を考慮して金額が算定されています。
過去の判例
大阪地判平成13年9月21日交民34巻5号1298頁は、25歳の初産婦が被害者の事案で、死産による精神的苦痛の慰謝料を350万円と認定しました。
その理由として、裁判所は、妊娠18週で死産したこと、事故後、再び被害者は妊娠することを待ち望んでおり、排卵誘発剤等のホルモン投与を受けているが、妊娠には至っていないことなどを挙げています。
それとは別に傷害慰謝料も認められており、死産を原因として慰謝料が350万円増額されたと言えます。