執筆者弁護士 山本哲也
交通事故の加害者に、かかった弁護士費用も請求できる?
1.交渉段階では認められる可能性が低い
交通事故にあってしまった場合、加害者側との交渉というのは一人でおこなうにはなかなか難しいことも多かったりします。
相手が保険会社だったりすると早めに示談を迫られたりするケースも少なくはありません。ですので、被害者が加害者に対しての請求をおこなうにあたって、弁護士など法律の専門家に依頼するというケースが多くあります。
しかしそれには費用がかかってしまいますので、被害者の方としては弁護士を雇うことになったのも加害者に責任があるとして、その弁護士費用も請求したいと思うのが通常だと思います。
しかし、任意保険会社と示談金の交渉をするにあたっては、弁護士費用を含めた金額での示談というのは出来ないケースがほとんどだといえるでしょう。
2.裁判になれば弁護士費用が認められる
裁判を起こして、判決で決着がついた場合には弁護士費用は損害の一部として認められています。
その際の金額は、実際に弁護士と契約をして支払う報酬額ではなく、一般的には裁判所に認められた損害額のおよそ1割程度を目安として認められることが多いです。
3.弁護士特約の活用で弁護士費用をゼロに
もし被害に遭った方の保険に弁護士特約が付いていれば、その保険を使用し、弁護士に依頼することができます。
弁護士特約は被害に遭った際に300万円までの弁護士費用を保険で補ってくれるもので、費用を気にすることなく、弁護士に依頼することができます。
弁護士特約のメリット
弁護士特約の最大のメリットは、交通事故の示談交渉を弁護士に任せられる点です。
交通事故の損害賠償では、弁護士だけが使える基準(弁護士基準)が存在しており、その基準は保険会社が使用する基準の数倍にもなるケースがあります。
当事務所でご依頼をお受けした件でも、保険会社の提示額から弁護士の交渉によって3倍、4倍に増額した件は珍しくありません。
また、交通事故の被害者は身体的、精神的にも大きなダメージを受けてしまいます。そのような状況で相手方の保険会社と交渉を行うのは容易ではありません。
専門家である弁護士に全て任せる事によって、保険会社と連絡を取る必要がなくなり、「ストレスから開放された」というお客様の声を良くお聞きします。
弁護士特約の注意点
弁護士特約はぜひ活用していただきたい特約ではありますが、注意点があります。
それは支払いの上限額がある点です。ほとんどの保険会社で「補償される弁護士費用は300万円まで」と定めているのです。
300万円を超えてしまった差額分は、被害者本人が負担する事となります。
ただし、実際に弁護士費用が300万円を超えてしまうケースがどの程度あるかと言うと、とても少ないと言えます。
具体的には、11級以上の後遺障害等級が認定された場合には、損害賠償額が高額になりやすく、弁護士費用も300万円を超える可能性があります。
交通事故で最も多い「むちうち」で14級が認定されたケースでは、300万円を超えてしまう事はほぼゼロであるといえるでしょう。
なお、たとえ300万円を超えてしまったとしても、一般的な弁護士事務所では保険会社から獲得した賠償金の中から費用をいただく事になります。被害者側に持ち出しが発生する可能性はありませんので、ご安心ください。
裁判で認められる弁護士費用と特約との関係性
訴訟をすると、弁護士費用も損害の一部として認められ、相手に対して弁護士費用を請求することができるので、加害者から受け取る弁護士費用と弁護士費用特約との関係が問題となります。
この問題について、被害者は弁護士費用特約によって弁護士費用を負担しないため、弁護士費用相当額の損害は発生していないと考えることもできます。
それに対し、「保険金は原告(保険契約者)が払い込んだ保険料の対価であり、保険金支払義務と損害賠償義務とはその発生原因ないし根拠において無関係と解される」として、弁護士費用特約が利用されても弁護士費用相当額の損害が発生していると判断した裁判例があります(大阪地裁平成21年3月24日交民集42巻2号418頁)。
また、弁護士費用の請求が認められる場合を念頭においた保険約款の規定もあります。例えば、弁護士費用特約から弁護士費用が支払われた場合は、加害者に対する弁護士費用の請求権が被害者から保険会社に移転するとの規定や、弁護士費用特約によって支払われた金額の一部又は全部を保険会社に返還するとの規定があります。
4.まとめ
以上で述べた通り、加害者側に弁護士費用を請求できるかどうかは、交渉なのか裁判なのかで結果が変わります。
ご自身の任意保険に弁護士特約が付帯していれば、300万円までの弁護士費用は保険会社が支払ってくれます。
弁護士特約は、ご家族の保険に付帯している場合でも利用できる可能性があります。交通事故に遭ってしまった時には、ご自身だけでなくご家族の保険にも使える特約がないか確認しておくと安心です。