執筆者弁護士 山本哲也
加害車両が複数いる(多重事故)場合は誰に慰謝料を請求すればいい?
一般的な交通事故の加害車は1台というケースが多いですが、多重事故などのケースで、加害車両が複数ある場合もあります。 このような加害車両が複数ある交通事故の場合、被害者は、それぞれの車両が契約している自賠責保険に被害の補償を求めることができますし、そのうち1人に対して損賠賠償を請求することもできます。
1.共同不法行為について
例えば、自動車の通りが多い場所で1台の加害車両に衝突された後、さらにもう1台の加害車両によって衝突された場合等、加害者が複数の交通事故が起こったとします。
このように、複数の加害者が共同して1つの被害を出す場合を、共同不法行為といいます。
共同不法行為の損害賠償は加害者全員の連帯責任
共同不法行為の場合、加害者は被害者に対して連帯して責任を負います。つまり、被害者との関係では、加害者全員が損害全部について賠償責任を負うことになります。
したがって、被害者は、加害者全員に損害額全ての賠償を請求することができますし、加害者のうちの一部に対して損害額全ての賠償を請求することもできるのです(複数の加害者の間では、各自の負担する割合を区別することが可能ですが、負担部分を超えて賠償したときには被害者間の求償で処理され、被害者はあくまで全額の請求が可能です)。
具体的な例
例えば、ある交差点でAが乗車する自動車(A車)が直進していたところ、Bの運転する自動車(B車)が同交差点を右折しようとしてA車と衝突し、さらにB車が歩道に押し出されて歩行者Cにぶつかったとします。
この場合にCが1000万円の損害を被ったとすると、AとBは連帯してCに対して1000万円を支払う責任を負います。
Cは、Aに対してもBに対しても合計で1000万円を請求することができます。
Aは、事故の責任の一部がBにあること(Aの負担部分を超えること)を理由としてCからの請求を拒むできず、1000万円を支払う必要があります。
Aは、Cに支払いをすると、Bに対して自分の負担部分を超える部分をBに対して請求します。AとBの負担割合をA:B=20:80とすれば、AはBに対して800万円を請求することができます。
なお、Cが請求することができるのは合計で1000万円だけであり、AとBの両方から1000万円(合計2000万円)を受け取ることはできません。
共同不法行為の成立要件
共同不法行為責任の成立要件は、複数の加害者の行為が客観的に見て一体となって損害を生じさせたこととされています。
同じ時に同じ場所で2つの車両に衝突を受けたような場合が、共同不法行為の典型例です。
異時共同不法行為
一方、被害者の怪我の部位が1か所の場合、2台の加害車両の衝突の時間や場所が離れていても、共同不法行為とする考え方もあります。
これを異時共同不法行為といいます。
例えば、追突事故によってむちうちの治療中である被害者が、再び追突事故に遭ってしまい、むちうちが悪化したケースです。
このような場合、最初の事故で発生した損害賠償は、二度目の事故の加害者に引き継がれます。
自賠責の制度上の扱い
また、共同不法行為の交通事故については、自賠責の制度上も、加害者が1名の場合とは異なる扱いがあります。
つまり、自賠責の制度上、人身事故による損害について、法定の限度額の範囲で自賠責保険会社からの補償を受けられるのですが、共同不法行為の交通事故の場合には、その限度額が加害者の数に応じて増えることになります。
例えば、加害者が2名なら、傷害部分の限度額120万円が、2倍の240万円に増えることになります。もっとも、これは自賠責保険会社に請求できる枠が増えるということであって、実際に補償される損害額が2倍になるというわけではありません。
例えば、交通事故の被害者が怪我をして加害車両が2台の場合、傷害による損害(治療費・休業損害・入通院に対する慰謝料など)が100万円であれば、補償されるのは100万円であって、2倍の200万円になるわけではありません。
2.多重事故の相談は弁護士に相談を
複数の車両に衝突され、加害者が複数いるケースでは共同不法行為が成立し、加害者全員に損害賠償を請求できます。
なお、実務上、複数いる加害者のうち過失が一番大きくなると想定される加害者の保険会社が治療費などの一括対応をするケースが多いでしょう。
一括対応した保険会社は、他の加害者の保険会社に対して、それぞれの過失割合に応じた支払額を請求する(求償)という流れです。
また、共同不法行為が成立すると、自賠責の限度額も加害者の数に応じて増え、上限額が増える点にも注意が必要です。
以上の通り、加害車両が複数いる事故=多重事故は、単一の交通事故と違って賠償関係が複雑になり、通常の交通事故とは違う対応が必要となります。
このような事故に遭われてしまったら、交通事故問題に詳しい弁護士に一度ご相談されることをおすすめします。