執筆者弁護士 山本哲也
死亡事故による損害賠償のパターンについて教えてください
日本で仕事をしている外国人の死亡事故。逸失利益は請求できる?
この場合ですと、外国人の方の日本での就労可能期間に左右されてきます。
通常ですと労働が可能であるとされる年齢は67歳ということになり、その年齢までの逸失利益が支払われることになります。その外国人の方が日本での就労が67歳まで確実に見込めるという場合であれば、日本人の場合と同じような考え方で計算された逸失利益が支払われることになります。
しかし、日本での就労が一定期間しか見込めずに、その後は帰国したり日本以外の国で仕事をしたりすることが見込まれる場合には、日本での就労期間は日本での収入に基づき、そしてその後は日本以外の国で得られる収入を基礎として計算されることとなります。
慰謝料に関しても同様の問題があります。
交通事故の被害にあった外国人の方が長期間にわたり日本に在住できないか在住しないと考えられる場合、その外国人の出身国の経済水準を考慮して慰謝料の金額を決めるであるという考え方と、そのような区別をせず日本人と同様の基準で慰謝料の金額を決めるべきであるという考え方が対立している状況です。
そのため、被害者が日本に比べると生活水準が低い国の方であった場合には、日本人に比べますと低い金額の慰謝料が認定されることもあります。
失業者が交通事故で死亡した場合、逸失利益を請求することはできますか?
交通事故によって被害者が亡くなった場合、生きていれば働いて得られたはずの利益、つまり逸失利益を加害者側に請求することが可能です。
しかし、被害者が亡くなったときに仕事に就いていたならば請求は問題なく可能ですが、被害者が職を失って職を探している最中だったという場合もあります。
このような、いわゆる失業者の方については、事故に遭って亡くなったときには収入がないことになるので、逸失利益が認められるかが問題になります。
この点については、失業者であっても、職を得ることができたと言える場合には、逸失利益を認めることが可能です。具体的には、労働する能力と意欲があって、再び職に就く可能性が高かったと言える場合は、収入を得ることができただろうと考えられるので、逸失利益を認めることが可能なのです。
その場合、逸失利益の計算の基礎になる収入がいくらなのかが問題になりますが、これについては、再就職によって得られるはずだった収入がどれくらいなのかを考えることになります。しかし、就職先が内定していた場合でない限り、具体的にいくらの収入が得られる予定だったのかは分からないのが普通です。
そのため、再就職すれば得られたであろう収入については、被害者が事故前に仕事に就いていたときの収入を参考にするという考え方と、平均賃金を参考にするという考え方の、大きく2つの考え方があり得ます。
この2つの考え方は、どちらかが正しいというものではなく、実務でも、適宜妥当な考え方を用いているようです。
もっとも、例えば、被害者が若者の場合、失業前に短期間だけ就いていた仕事の低い収入から一生の逸失利益を計算するのは、実態にそぐわないことが多いでしょう。このような場合には、平均賃金を参考にする方が合理的と考えられます。
交通事故が原因で死亡した場合、相続人は、死亡した方が受給していた年金相当額を相手方に請求することはできますか?
現在の実務上、国民年金、厚生年金等の老齢年金や障害年金は、被害者側が保険料を拠出しており、交通事故と因果関係のある損害といえることから、相手方に請求することができます。
交通事故が原因で死亡した場合、交通事故により死亡しなければ得られたであろう利益は、交通事故と因果関係のある損害といえることから、相手方に請求することができます(これを、死亡逸失利益といいます)。
この点、年金を受給していた被害者の方が交通事故による受傷が原因で死亡した場合、保険料を生前に拠出していたにもかかわらず、将来受給する予定の年金が受給できないことになります。
それゆえ、現在の実務上、被害者側が保険料を拠出していた年金、例えば、国民年金や厚生年金等の老齢年金、障害年金については、交通事故と因果関係のある損害といえますので、相手方に請求することができます(これを、年金の逸失利益といいます)。
ただ、遺族年金等の受給者の保険料負担のない年金については、社会保障を目的としており、相手方に請求できないものと考えられています。
年金の逸失利益の具体的な計算方法としては、現在の実務上、年金の額から生活費を控除した金額を、平均余命まで受け取ることができるものとして計算しています。
年金の額については、年金額改定通知書などの書類で確認したり、年金事務所に問い合わせたりするなどして確認します。
また、生活費が控除されるのは、生きていた場合には生活費が支出されることから、年金の額から生活費を控除して逸失利益を計算することとされています。
年金が唯一の収入となるケースでは、年金以外にも収入がある場合と比べれば、受け取った年金が生活費に使われる割合が高いと考えられます。そのため生活費として控除される割合(生活費控除率)が通常よりも高く認定される傾向があります。
なお、本来の受給時期よりも早く、年金を受給することになることから、早く受給したことによる中間利息を控除することになります(具体的には、中間利息の計算の簡易化のため、実務上、ライプニッツ係数という数値が用いられています)。
サラリーマンが交通事故で死亡。逸失利益はどうなる?
交通事故の被害者がサラリーマン(給与所得者)の場合、死亡逸失利益の算定は原則として事故前の収入を基礎に行うことになります。
事故前の収入の額については、勤務先の発行する源泉徴収票などにより認定することになります。なお、算定にあたり基礎となる金額は、税金等を控除しない、いわゆる税込みの金額を用いるものとされています。
しかし、事故前の収入を基礎に死亡逸失利益を算定することが適切でない場合もあります。例えば、若年労働者が交通事故に遭って死亡した場合、若年であるため給与が低水準にとどまっているが将来はかなり昇給することが考えられますが、事故当時の収入を基礎に死亡逸失利益を算定すると、将来の昇給が全く考慮されない結果となります。
そのため、事故時概ね30歳未満の給与所得者については、現実の収入額ではなく、全年齢平均の賃金センサス(平均賃金)を用いて死亡逸失利益を算定することもあります(もちろん、現実の収入額の方が高額の場合には、現実の収入額を基礎に算定することになります)。
また、若年労働者であるかにかかわらず、事故前の収入を基礎に死亡逸失利益を算定する場合、(事故後の)将来の昇給が考慮されないことになります。これについては、大企業のように給与規定や昇給基準が確立されている場合には、事故前の収入に将来の昇給を考慮して死亡逸失利益を算定することが認められやすいと言えます。しかし、経済情勢などを考慮して、将来の昇給を考慮することに否定的な判断をした裁判例もありますので、将来の昇給を考慮して死亡逸失利益を算定することが簡単に認められているわけではありません。
5歳の息子が交通事故で死亡。損害賠償額の計算方法を知りたい。
交通事故の被害者の方が事故により死亡してしまった場合、次の項目を相手方に請求する事ができます。
死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用に加え、治療費、入院雑費、近親者の付添看護費、傷害慰謝料などが主な損害項目となります。
子供や幼児が亡くなった場合の死亡慰謝料については、一般的に2000万~2500万円と言われていますが、あくまでも目安であり、具体的な事情に応じて増えたり減ったりすることもあります。また、2000万~2500万円という額は、亡くなった被害者本人のみならず被害者の近親者(遺族)の慰謝料を含めた場合の目安とされています。
18歳以下の年少者の死亡による逸失利益の計算方法は、原則として下記計算式によります。
◇賃金センサスの全年齢平均賃金×(1-生活費控除率)×{(67-死亡時年齢)のライプニッツ係数-(18-死亡時年齢)のライプニッツ係数}
このような計算方法は、事故に遭って死亡することがなければ18歳から仕事に就いて、平均賃金と同額の収入を得ていたであろうという前提で、事故に遭わなければ得られていたはずの収入を計算するというものです(ですから、例えば、大学に進学することが確実であったような場合は、大卒者の平均賃金で22歳から働き始めることを前提にして死亡逸失利益を計算するということも考えられます)。もっとも、事故に遭わずに生きていれば、食費などの生活費がかかっていたはずであるため、この分を生活費控除という形で差し引いています。
葬儀費用については、原則的な目安としては150万円とされ、実際に支出した額がこれを下回る場合には、実際に支出した額が基準になります。
以上に加えて、事故後亡くなられるまでに受けた治療の費用はもちろん、事故後入院され治療を続けたものの亡くなられた場合には、入院雑費や近親者の付き添い看護費用が損害項目として考えられます。また、事故の後相当期間治療を受けた末に亡くなられた場合には、死亡慰謝料とは別に傷害慰謝料が認められるとされています。
近親者の慰謝料について教えてください。
慰謝料は、被害者が受けた精神的苦痛に対する填補としての賠償がされるものです(民法710条)。そして、被害者以外にも、死亡した被害者の一定の親族(「被害者の父母、配偶者及び子」)については、民法711条で固有の慰謝料請求権が認められています。
近親者の慰謝料を請求できる主体については、民法711条に規定された「被害者の父母、配偶者及び子」に限られるわけではなく、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視することができる身分関係が存在すれば、その者も同条の規定の類推適用により固有の慰謝料を請求することができると解されています(被害者の夫の妹につき最高裁昭和49年12月17日判決)。
もっとも、上記判例においては、「被害者との間に同条(民法711条)所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた」として上記のとおり請求できるものとされており、祖父母、孫又は兄弟姉妹については、個別の事案において慰謝料の賠償が認められるか否か、認められるとした場合の金額の相当性の判断に当たり、被害者との間に特別に緊密な関係があったかどうか等が問題となり、その点の具体的な主張・立証が必要となります。
なお、被害者が死亡していない場合(後遺障害が残った場合)であっても、被害者の近親者が、被害者が生命を害された場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合は、民法709条と710条に基づき、被害者の近親者が固有の慰謝料を請求し得る余地があります(最高裁昭和33年8月5日判決)。
交通事故で内縁の配偶者が死亡。内縁でも慰謝料を請求できる?
被害者が死亡した場合に固有の慰謝料を請求することができる主体については、民法711条に揚げられている「被害者の父母、拝具者及び子」に限られるわけではなく、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視することができる身分関係が存在すれば、その者も同条の規定の類推適用により固有の慰謝料を請求することができると解されています。
そして、内縁の配偶者にも同条の類推適用により慰謝料請求を認めた裁判例もあります。
ここで言う内縁関係とは、夫婦としての実質は完全に備わっており、ただ、婚姻の届出だけが欠けているというような状態のものです。
わたしには妻と2人の子供がおり、わたしの両親も健在です。もしわたしが交通事故で死亡した場合、損賠賠償は誰が行うことができるのでしょうか?
交通事故により被害者が亡くなられた場合、被害者の加害者に対する損害賠償請求権を被害者の相続人が相続により取得します。したがって、この場合は、被害者の相続人が加害者に対して損害賠償を行うということになります。
また、民法711条は、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」と定めています。この規定により、被害者の父母、配偶者及び子について固有の慰謝料の請求が認められています。なお、固有の慰謝料請求については、被害者の父母、配偶者及び子以外の者についても認められる場合があり、被害者の兄弟姉妹、祖父母などについて固有の慰謝料請求を認めた裁判例もあります。
今回のケースですと、死亡した被害者の相続人は、配偶者と2人の子供であり、被害者の父母は相続人ではありません。したがって、被害者の配偶者と子供たちは、被害者本人の損害賠償請求権の相続人として損害賠償請求ができるほか、近親者固有の慰謝料(民法711条)の請求を行うこともできます(相続する損害賠償請求権の中には、本人の慰謝料も含まれますので、相続人は、被害者本人の分の慰謝料と相続人固有の慰謝料を請求するということになります)。
これに対して、被害者の父母は、相続人ではありませんが、近親者固有の慰謝料(民法711条)の請求を行うことができます。
このように、死亡事故においては、多くの者が慰謝料請求権を有することになる場合があります。ただ、交通事故裁判の実務では、死亡した被害者本人と近親者の慰謝料を合わせた総額について、基本的に差を設けないよう運用しています。そのため、慰謝料を請求出来る近親者の数が多くなっても、必ずしも慰謝料の総額が増額されるというわけではありません。
夫が交通事故で亡くなった場合、誰に慰謝料請求権があるの?
交通事故により被害者の方が死亡した場合の慰謝料請求については、被害者本人の慰謝料と、被害者の近親者固有の慰謝料の二つが問題になります。
被害者本人の慰謝料について
まず、被害者本人の慰謝料については、亡くなられた被害者の相続人が、慰謝料請求権を相続し、加害者に対して請求していくということになります。今回のケースですと、亡くなられた被害者の妻であるご質問者自身とその子供が相続人となり、被害者本人の慰謝料を請求していくことになります。
近親者の慰謝料について
次に、近親者固有の慰謝料です。近親者の慰謝料については、民法711条で他人の生命を侵害した者は被害者の父母、配偶者及び子に対して損害賠償しなければならないと定められています。今回のケースですと、亡くなられた被害者の妻とその子供、ご主人のご両親の合計4名が近親者慰謝料を請求できます。
今回のケースで誰が慰謝料請求できるかということについては、以上のとおりです。
きょうだいや内縁の配偶者の慰謝料は?
それでは、「被害者の父母、配偶者及び子」以外の者については、固有の慰謝料は認められないのでしょうか。
この点について、被害者の夫の妹に固有の慰謝料請求権を認めた最高裁判例があります。
また、内縁の配偶者に固有の慰謝料請求権を認めた裁判例もあります。
このように、被害者の死亡につき固有の慰謝料が認められるのは、「被害者の父母、配偶者及び子」に限られるわけではなく、これらの者と実質的に同視することができる身分関係が被害者との間に存在する者であれば固有の慰謝料が認められるとされています。