執筆者弁護士 山本哲也
素因減額とは何ですか?
素因減額とは、交通事故等の発生や損害の発生・拡大について、被害者の心因的な要因や身体的な要因が影響している場合、その程度に応じて損害賠償額を減額することを言います。
第1 最高裁の考え方
素因減額についての最高裁の基本的な考え方は以下のようになっています。
1 素因減額の法律構成
素因減額は、身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して行います。
2 心因的要因について
ア 損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、減額することができる。
イ 被害者の性格も、通常想定される範囲を超えるようなものであるときには、斟酌することができる。
3 身体的素因について
ア 被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発止した場合において、疾患を斟酌して、減額することができる。
イ 被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有し、これが損害の発生に寄与したとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、減額事由とすることはできない。
第2 東京三弁護士会交通事故処理委員会の試案
上述のように素因を斟酌して減額するとしても、次に減額の割合が問題となります。
減額の割合について、東京三弁護士会交通事故処理委員会は、試案として、次のような減額率を定めた既往症減額基準及び心因性減額基準を公表したことがあります。
1 既往症減額基準
①「既往症が軽度、一般的なもので傷害に対する寄与が極めて軽微であると認められるもの」及び②「既往症の関与が明らかであるが、寄与の度合いが軽微であると認められるもの」の減額率を0%、③「既往症の関与が明らかであり、寄与の度合いが相当程度認められるもの」の減額率を20~40%、④「既往症の関与の度合いが大きく傷害の治療が長期化する主たる原因となっていると認められるもの」の減額率を30~50%、⑤「既往症がなければ、受傷の治療の必要がほとんどない程度であって、結果発生が通常では予想できないと認められるもの」の減額率を40~70%としています。
2 心因性減額基準
①「傷害の部位・程度、事故内容から見て、通常人であっても心因的影響を受けやすい状況にあると認められるもの」及び②「傷害の部位・程度、事故内容から見て、通常人であれば心因的影響をあまり受けないと認められるが、影響を受ける可能性も相当程度認められるもの」の減額率を0%、③「傷害の部位・程度、事故内容が軽く、器質的な要因が相当程度加わっていると認められ、通常人では影響を受ける可能性が無いとは言えないが極めて低いもの」の減額率を20~40%、④「通常であれば傷害を受けるような事故ではなく、受傷当初の傷害の程度が軽く、明らかに被害者の器質的、性格的な要因の関与が認められ、通常人であれば考えられない程度の損害が発生したとみられるもの」の減額率を30~50%としています。
素因減額に関する裁判例はこれまでも多く存在するものの、現在に至ってもなお、素因とはなにか、いかなる素因が減額事由にあたるか、その定義、判断基準が明確になっているとは言えない状況にあります。
より詳しいことにつきましては、一度、素因減額等、交通事故による損害賠償の実務に精通した弁護士にご相談ください。