脊髄損傷|損傷高位(レベル)と症状の関係
- 執筆者弁護士 山本哲也
脊髄とは、脳からつながる太い神経のことをいい、脳とともに中枢神経を構成しています。そのため、交通事故により脊髄を損傷してしまうと、脳から体へうまく信号を送ることができなくなり、麻痺などの症状を発症することになります。
脊髄は、首から下に頚髄・胸髄・腰髄と区分されます。また、損傷を受けた脊髄の部位を「高位」といいますが、交通事故による脊髄損傷では、損傷高位によってあらわれる症状が異なります。
今回は、交通事故の脊髄損傷について、損傷高位と症状の関係をわかりやすく解説します。
目次
頚髄損傷(頸髄損傷)の症状
頚髄は、英語で「Cervical spine」と呼び、頭文字をとって「C」と略します。
頚髄の各部位には順に番号が付けられており、C1~C8まで存在します。
交通事故で頚髄を損傷した場合、C1~C8までのどの部位が損傷したのかによって、以下のように出現する症状が異なってきます。
損傷高位 | 症状 |
C1~C5 | 通常は致命的な損傷となり、救命救急医療で生死が分かれます。呼吸に使われる筋肉の麻痺を引き起こしますので、状況によっては人工呼吸器を必要とし、人工呼吸器なしでは生きられない状態になります。
・四肢麻痺(四肢の運動機能・感覚障害) ・呼吸麻痺 |
C5~C6 | 脚、胴体、手、手首に麻痺が生じ、肩と肘を動かす筋肉の筋力の低下が生じます。そのため、腕はわずかに曲げることができますが、伸展や突っ張りは困難な状態となります。 |
C6~C7 | 脚、胴体、手首や手の一部に麻痺が生じますが、肩やひじは正常に動かすことができます。そのため、ひじの屈曲や突っ張りは可能です。 |
C7~C8 | 脚、胴体、手に麻痺が生じます。指は動きますが、握力が低下していることがあります。 |
C8~T1 | 脚、胴体に麻痺が生じます。指や手を動かす筋肉の筋力が低下しますが、肩やひじは正常に動かすことができます。
ホルネル症候群(まぶたの下垂、瞳孔の収縮、頭の片側の発汗が減少など)を発症することもあります。 |
頚髄の損傷は、損傷高位が頭部に近ければ近いほど、命にかかわる状態になります。
特に、C1~C5で頚髄の損傷が生じると、呼吸麻痺を引き起こし、最悪のケースでは呼吸停止となるおそれもあります。
胸髄損傷の症状
胸髄は、英語で「Thoracic spine」と呼び、頭文字をとって「T」と略します。
胸髄の各部位には順に番号が付けられており、T1~T12まで存在します。
交通事故で胸髄を損傷した場合、T1~T12までのどの部位が損傷したのかによって、以下のように出現する症状が異なってきます。
損傷高位 | 症状 |
T2~T4 | 脚、胴体の麻痺が生じ、乳首より下の感覚を喪失します。
肩やひじは正常に動かすことができます。 胸部より下の汗がでないという症状があらわれます。 |
T5~T8 | 脚、胴体の麻痺が生じ、胸郭より下の感覚を喪失します。
胸筋と背筋がマヒしますので、体幹の保持が困難になります。 |
T9~T11 | 脚の麻痺が生じ、へそより下の感覚を喪失します。 |
T11~L1 | 股関節と足の麻痺が生じ、股関節と足の感覚を喪失します。 |
T1を除き、上肢を支配領域に含むのは頚髄ですので、胸髄を損傷したとしても、基本的には上肢に運動麻痺や感覚障害が生じることはありません。
胸髄損傷により運動麻痺や感覚障害が生じるのは、主に体幹と下肢になります。
腰髄損傷の症状
腰髄は、英語で「Lumbar spine」と呼び、頭文字をとって「L」と略します。
腰髄の各部位には順に番号が付けられており、L1~L5まで存在します。交通事故で腰髄を損傷した場合、L1~L5までのどの部位が損傷したのかによって、以下のように出現する症状が異なってきます。
損傷高位 | 症状 |
L2 | 脚の筋力低下としびれが生じます。L2を損傷すると大腿内側から下の部分に感覚消失や鈍麻の症状があらわれます。 |
L3 | 脚の筋力低下としびれが生じます。L3を損傷すると大腿全面やひざのあたりから下の部分に感覚消失や鈍麻の症状があらわれます。 |
L4 | 脚の筋力低下としびれが生じます。L4を損傷すると大腿外側や下腿内側から下の部分に感覚消失や鈍麻の症状があらわれます。 |
L5 | 脚の筋力低下としびれが生じます。L5を損傷すると下腿前面・外側や足の領域に感覚消失や鈍麻の症状があらわれます。 |
腰髄を損傷した場合には、腰から下の部位、すなわち下半身や一部の胸腹部臓器の機能の小実または障害が生じます。
頚髄損傷や胸髄損傷に比べると症状があらわれる範囲は狭くなりますが、損傷状況によっては、下半身不随の症状があらわれることもあります。
脊髄損傷の後遺障害認定のポイント
脊髄損傷を理由に後遺障害認定を受ける場合には、以下のポイントを押さえておきましょう。
脊髄損傷の存否
脊髄損傷を理由に後遺障害認定を受けるには、その前提として、交通事故による脊髄損傷が存在する必要があります。
脊髄損傷の存否は、MRI、CTなど画像所見や神経学的検査所見(病的反射、腱反射、筋力、知覚など)により確認されます。
椎体などの骨折により脊髄損傷が生じているケースであれば、比較的認識されやすいため、早期にMRI撮影がなされるケースが多いです。
しかし、中心性脊髄損傷では脊椎に異常がないため、単なるむちうち症と診断されてしまい、MRI撮影がなされず、脊髄損傷が見逃されてしまうこともあります。
そのため、手指の巧緻運動能力低下や手指に強いしびれを感じたときは、脊髄損傷を疑い、できるだけ早く精度の高いMRI画像を撮影することが大切です。
脊髄損傷の後遺障害の判断基準
脊髄損傷による後遺障害は、以下のような基準で判断されます。
等級 | 内容 | 判断基準 |
1級1号 | 脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの | ①高度の四肢麻痺
②高度の対麻痺 ③中等度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要する ④中等度の対麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要する |
2級1号 | 脊髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時他人の介護を要するもの | ①中等度の四肢麻痺
②軽度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要する ③中等度の対麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要する |
3級3号 | 生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、脊髄症状のため労務に服することができないもの | ①軽度の四肢麻痺
②中等度の対麻痺 |
5級2号 | 脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの | ①軽度の対麻痺
②一下肢に高度の単麻痺 |
7級4号 | 脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの | 一下肢に中等度の単麻痺 |
9級10号 | 通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの | 一下肢に軽度の単麻痺 |
12級13号 | 通常の労務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの | 運動性、支持性、巧緻性および速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺 |
当事務所の解決事例
当事務所の解決事例として以下の3つの事例がございますのでご参考にしてください。
脊髄損傷で寝たきりとなった60代女性につき、施設利用を前提とした将来介護費用等を含めた約1億500万円が補償された事例
この事例は、交通事故で脊髄損傷を負い寝たきりとなった60代女性が、将来の介護費用などを含む約1億500万円の補償を受けたケースです。
当事務所が、介護施設利用を前提に高額な賠償金を交渉し、被害者の将来の介護費用や家族の精神的苦痛を補償する結果となりました。
詳細は、以下のリンクよりご確認ください。
50代男性につき、当事務所のサポートにより頚髄不全損傷で7級が認定され、約3720万円が補償された事例
この事例では、50代の男性が交通事故で頚髄不全損傷を負い、後遺障害7級4号が認定されました。
事故は信号のない交差点での衝突によるもので、加害者側保険会社と交渉が進まず、最終的に裁判で解決しました。
裁判では、後遺障害7級が認められ、過失割合も依頼者側に不利な点がなく、約3720万円の賠償金が支払われる結果となりました。
詳細は以下のリンクよりご確認ください。
両下肢麻痺等・後遺障害等級1級の賠償額が、保険会社の提案額から2倍以上(約6898万円)増額し、約1億3134万円が補償された事例
この事例では、バイク事故で脊髄損傷を負い、後遺障害等級1級1号が認定された30代男性が、当初提案された6236万円の賠償金から2倍以上の約1億3134万円を獲得しました。
自宅改造費や将来の介護費用、後遺障害慰謝料などが大幅に増額されたことがポイントです。
特に自宅改造費として1500万円が認められるなど、依頼者に有利な結果を得られました。
詳細は以下のリンクよりご確認ください。
まとめ
交通事故で脊髄損傷が生じると、損傷高位や程度によっては、重篤な後遺障害が生じる可能性があります。適切な後遺障害認定を受けるためには、交通事故に詳しい弁護士のサポートが不可欠になりますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の被害に遭い、脊髄損傷と診断された方は、山本総合法律事務所までお気軽にご相談ください。