目次
死亡事故で示談交渉を進める方
死亡事故とは、事故に遭ったご本人(被害者)が死亡した交通事故です。
事故現場で亡くなった即死のケースだけではなく、しばらく治療を受けていて最終的に亡くなった場合も死亡事故に含まれます。
死亡事故で示談交渉を進めるのは、被害者の遺族です。ご本人は死亡して示談交渉を進めることができないので、損害賠償請求権を相続した遺族が相手へ損害賠償金を請求します。
交通事故で人が死亡すると、その人が取得した損害賠償請求権が相続人へと引き継がれます。そこで相続人となった遺族が加害者へ損害賠償請求権を行使して賠償金を請求するのです。多くの場合には事故の加害者の保険会社を相手に示談交渉を開始することになります。
遺族として損害賠償する相続人
それではどういった人が実際に相続人となって示談交渉を進めるのでしょうか?
法律上、相続人となるのは以下のような人です。
配偶者は常に相続人となる
被害者に配偶者がいた場合、配偶者は常に相続人となります。ただし配偶者として相続できるのは法律婚の配偶者のみであり、内縁の配偶者に相続権はありません。
子どもが第1順位の相続人になる
配偶者以外の相続人のうち、第一順位の相続人となるのは子どもです。被害者に子どもがいたら必ず相続人になります。前婚の配偶者との子どもや認知した子ども、養子にも実子と同じだけの相続権が認められます。
親が第2順位の相続人になる
被害者に子どもがいない場合、親が第2順位の相続人になります。両親が存命の場合は両親が、片親のみとなっている場合には片親が相続します。
兄弟姉妹が第3順位の相続人になる
被害者に子どもも親もいない場合、兄弟姉妹が第3順位の相続人になります。
相続人調査によって相続人を確定する
死亡事故が起こったら、誰が相続人になるかを確定しなければなりません。そのためには相続人調査を行う必要があります。相続人調査とは、どのような相続人がいるのかを調べる手続きです。具体的な方法としては、亡くなった被害者の出生時から死亡するまでのすべての戸籍謄本類を取得して内容をチェックしなければなりません。
相続人の確定の段階でつまずいてしまったら、示談交渉も進められません。困ったときには弁護士までご相談ください。
死亡事故の示談交渉の流れ
死亡事故の遺族の立場となったら、加害者側と示談交渉を進めなければなりません。
示談交渉とは、加害者側に交通事故の損害を賠償してもらうために話し合いで条件や金額を決めることです。
どのような流れで示談交渉を進めるのか、示談交渉を始めるタイミングなどをみていきましょう。
示談交渉が始まる時期は?
死亡事故で示談交渉を始める時期は、一般的に被害者の49日の法要が済んだ頃です。
その頃に保険会社から連絡が来て、示談交渉を始めるケースが多数となっています。
もしも加害者側から連絡が来ない場合、遺族の方から加害者へ連絡を入れる必要があります。
STEP1 遺族の代表者を決める
死亡事故で示談交渉を進めるには、遺族の代表者決めなければなりません。
確かに理屈としては、遺族はそれぞれ割合的な損害衣装請求権を取得するので、各自が保険会社へ損害賠償請求できるはずです。しかし実際には保険会社は遺族からのバラバラの保険金請求に対応していません。
遺族の代表者を決めて、代表者を通じて示談交渉を進めなければならないのです。
遺族が複数いる場合、誰が代表者となって示談交渉を進めるのか決めなければなりません。
なお代表者が決まりにくい場合には、遺族全員が弁護士に示談交渉を委任すると弁護士が代理で示談交渉を進められるので、スムーズに示談交渉を進められます。
STEP2 示談交渉を開始する
遺族の代表者が決まったら、示談交渉を開始します。
相手の保険会社と、電話や手紙などの方法でやり取りを進めましょう。
示談交渉で決めるべきことは以下のような事項です。
- 慰謝料、逸失利益などの損害賠償金の金額
- お互いの過失割合
- その他の調整(損益相殺や素因減額など)
- 実際に払われるべき賠償金の金額
死亡事故の場合、遺族が相手に請求できる金額も多額になります。簡単に妥協せず、正当な権利を主張しましょう。
以下では示談交渉によって和解が成立した場合と成立しなかった場合にわけて流れを確認していきます。
関連リンク
死亡逸失利益の計算方法
死亡慰謝料の相場が知りたい
過失割合・過失相殺とは
和解が成立した場合
相手との示談交渉によって和解が成立した場合の流れは以下のとおりです。
STEP3 示談書を作成して示談金を受け取る
和解が成立した場合には「示談書」を作成します。多くのケースでは保険会社が和解案を送付してくるので、遺族側が合意すれば和解内容を反映した示談書を保険会社が送付してきます。
示談書を返送すると、1~2週間程度で指定口座へ示談金が振り込まれます。示談金が高額な場合は更に期間がかかる事もあります。
STEP4 遺産分割協議を行って賠償金を分配する
示談金が振り込まれたら、遺族はそのお金を分配しなければなりません。基本的には法定相続分に応じて分け合えば良いのですが、遺産分割協議を行って別の方法で分けてもかまいません。たとえば配偶者の生活のために配偶者へ多くの賠償金を渡したい場合、そういった合意も有効です。
遺産分割協議では、遺族が話し合いをして誰がどの遺産を取得するかを決めます。
法定相続分とは、民法が定める基本的な相続割合の事です。
法定相続分について、簡単にまとめると以下のとおりです。
相続のパターン | 配偶者 | その他の相続人 |
子どもがいる場合 | 配偶者は2分の1 | 子どもは2分の1を人数で分ける |
子どもがおらず、父母がいる場合 | 配偶者は3分の2 | 父母は3分の1を人数で分ける |
子ども・父母がおらず、兄弟がいる場合 | 配偶者は4分の3 | 兄弟姉妹は4分の1を人数で分ける |
相続人となるべき子どもや兄弟姉妹が、相続が開始する前(被害者が死亡する前)に死亡していた場合、孫や甥・姪が代わりに相続する代襲相続となるケースもあります。
示談交渉にかかる期間
死亡事故の示談交渉にかかる期間は概ね3か月~半年程度です。ただしこじれるともう少し長くなる可能性はあります。
和解が成立しなかった場合
次に示談交渉を行っても和解が成立しなかった場合の流れをみてみましょう。
STEP3 調停やADR、訴訟を利用する
示談が決裂してしまった場合、当事者同士の話し合いでは解決できません。「調停」や「ADR」「訴訟」といった方法を検討する必要があります。
調停とは
調停とは、裁判所の仲介によって当事者同士が話し合い、紛争を解決する制度です。
調停を申し立てると、裁判所の調停委員が間に入って話し合いを仲介してくれます。被害者は加害者の保険会社や加害者本人と直接やり取りする必要はありません。
裁判所からの調停案を示されるケースも多く、両方が調停案を受け入れれば調停が成立して案件が解決します。
ただし調停はあくまで話し合いによって解決する手続きなので、当事者が納得しなければ解決できません。調停は「不成立」になって終わってしまいます。その場合にはADRや訴訟など、別の手段をとらねばなりません。
調停のメリット
調停を利用すると以下のようなメリットがあります。
- 相手と直接話さなくて良い
- 感情的になりにくい
- 調停委員から調停案の提示を受けられるケースが多い
- 自分たちで解決できなくても合意によって解決できる可能性がある
- 調停調書には強制執行力があるので、相手が支払をしない場合に差し押さえが可能
調停のデメリット
調停には以下のようなデメリットもあります。
- 強制的な解決ができないので、対立が激しければ解決は難しい
- 平日の昼間に裁判所へ行かねばならず、労力と時間をとられる
- 1か月に1回程度しか期日が入らず、スピーディな解決は難しい
ADRとは
ADRとは、裁判外の紛争解決方法です。裁判所ではない各種の機関が交通事故の紛争解決支援をしてくれます。
特に有名なのは「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」の2つです。保険会社が組織する「そんぽADR」も交通事故ADRの一種です。
交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターでは、以下のようなサービスを受けられます。
- 専門的知識を持つ担当者へ交通事故の相談ができる
交通事故の経験豊富な弁護士である担当者へ交通事故に関する相談ができます。
相手の保険会社への対処方法や、どのように示談交渉を進めていけば良いのかなども教えてもらえます。
- 交通事故の示談あっせんを受けられる
示談あっせんとは、センターの担当者が間に入って話し合いを仲介してくれるサービスです。裁判所の調停をADRで行うようなイメージです。示談あっせんではADR担当者から示談案の提示を受けられるのが一般的で、両者が示談案に合意すれば示談が成立し、紛争が解決されます。
- 審査請求を利用できる
ADRには審査請求という手続きもあります。審査請求とは、ADRに一定の結論を出してもらうための手続きです。
ADRに損害賠償金の計算方法や金額、過失割合などを決めてもらいます。
保険会社や共済は審査結果に拘束されるので、被害者さえ納得すれば最終解決できます。
保険会社や共済は拘束される一方で、被害者は気に入らない結果へ異議をとなえることもできるので、被害者に有利な制度といえるでしょう。
ADRのメリット
ADRには以下のようなメリットがあります。
- 費用がかからない
- 専門知識を持った担当者が解決を支援してくれる
- 示談あっせんを利用すると相手と直接話さなくても解決を目指せる
- 審査請求を利用すれば一定の結論が出るので、もめていても解決しやすい
ADRのデメリット
ADRには以下のようなデメリットもあります。
- 担当者は中立的な立場であり、被害者の味方をしてくれるわけではない
- 審査請求できるのは相手が提携している保険会社や共済の場合であり、加害者本人が相手の場合には審査で最終解決してもらえない
- ADRのセンターへ出頭しなければならないので労力と時間をとられる
- 示談ができても示談書には強制執行力がない
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訴訟(裁判)とは
訴訟とは、裁判所で権利義務の有無や内容について結論を出してもらうための手続きです。
基本的には話し合いの手続きではなく、当事者の主張と立証内容にもとづいて裁判所が判決を下し、一定の結論を導きます。判決が出たら、当事者はその内容に従わねばなりません。
相手ともめていても最終解決ができるのは訴訟のメリットといえるでしょう。
判決書には強制執行力があるので、万一相手が約束を守らないことがあっても相手の資産を差し押さえて賠償金を回収できます。
また交通事故の訴訟では、当事者が話し合って途中で和解するケースも多々あります。和解が成立したら、訴訟はその時点で終了します。和解調書にも強制執行力があるので、相手が合意した内容を守らなければ相手の資産や給料などを差し押さえられます。
訴訟のメリット
訴訟のメリットは以下のような事項です。
- 相手ともめていても最終解決できる
- 裁判基準で賠償金が計算されるので、示談交渉より賠償金額が増額される可能性がある
- 和解で早期に解決できる場合もある
- 判決書や和解調書には強制執行力があるので、相手が守らない場合に差し押さえができる
訴訟のデメリット
訴訟には以下のようなデメリットもあります。
- 複雑な手続きなので専門的な知識や対応ノウハウが無いと進めにくい、不利になる可能性が高い
- 労力と時間がかかる
保険会社との示談交渉が決裂してしまったら、基本的に上記の3種類の手続きの中から対処方法を選ばねばなりません。迷ったときには弁護士へ相談しましょう。
弁護士へ委任するとスムーズに解決しやすい
自分たちで保険会社と示談交渉していて決裂しそうな場合、弁護士に委任すると示談で解決できるケースもよくあります。
- 保険会社の提示する示談金額に納得できない
- 保険会社の提示する過失割合に納得できない
- 保険会社の提示とおりに示談してよいか迷いがある
こういった状況であれば、早めに弁護士へ相談しましょう。
【関連リンク】交通事故を弁護士に依頼するメリットとデメリット
遺産分割協議の進め方、注意点
死亡事故で示談金を受け取ったら、遺族間で遺産分割協議を行いましょう。遺産分割協議とは、被害者の遺した遺産について、誰がどれだけ取得するか決めるための話し合いです。
遺産分割協議の進め方については、実際に遺族が一同に会して行ってもかまいませんし、電話やメール、LINEなどの連絡方法を使ってもかまいません。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書とは、遺産分割の内容をまとめた書類です。不動産の相続登記や預貯金の払い戻しを受けるのに必要です。遺産分割の内容を明らかにして、将来のトラブルを防ぐ効果もあります。
遺産分割協議書ができたら、協議で定めたとおりに遺産を分けていきましょう。
遺産分割協議の注意点
死亡した被害者の遺産分割協議を行うとき、相続人に未成年者が含まれていたら注意が必要です。たとえば父親が交通事故で死亡して、母親と子どもが相続する場合などで問題が生じます。
この場合、母親は子どもを代理して遺産分割協議を進められません。母親と子どもの利害が対立するからです。遺産分割協議を進めるには、裁判所で子どもの「特別代理人」を選任してもらう必要があります。特別代理人が選任されたら、子どもの代理人として特別代理人が参加して遺産分割協議を進められます。
遺産分割協議でわからないことがある場合にも弁護士からアドバイスやサポートを受けられます。山本総合法律事務所では相続についても力を入れており、遺産分割協議から公正証書の作成までサポートが可能です。困ったときにはご相談ください。
死亡事故の慰謝料の相場
被害者が交通事故で死亡した場合、遺族は加害者へ慰謝料を請求できます。
死亡事故の慰謝料にはどのようなものがあるのか、またその程度の金額を請求できるのかみてみましょう。
死亡慰謝料と入通院慰謝料
死亡事故で加害者に対して主に請求できるのは、死亡慰謝料です。
死亡慰謝料とは、被害者が死亡して受けた精神的苦痛や遺族の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
被害者は死亡の瞬間大きな精神的苦痛を受けて慰謝料が発生し、その慰謝料が遺族へ受け継がれると考えられています。また遺族は被害者を失って大きな精神的苦痛を受けるので、遺族固有の慰謝料も認められます。
もう1つ、入通院慰謝料(傷害慰謝料)を請求できる可能性もあります。これは被害者が交通事故でケガをして入通院したときに請求できる慰謝料です。死亡事故の中でも被害者が即死せずにしばらく入通院してから死亡した場合に入通院慰謝料を請求できます。
3種類の賠償金計算基準
死亡慰謝料や入通院慰謝料を計算するとき、計算方法は一律ではありません。
交通事故の賠償金計算基準には3種類があります。
自賠責基準
自賠責保険が保険金を計算するときに適用する基準です。どこの保険会社でも同じ金額になります。金額的には3つの基準の中でもっとも低額になるケースが多数です。
任意保険基準
任意保険基準は任意保険会社が賠償金を計算するために用意している独自の基準です。それぞれの保険会社が自社基準を定めているので、保険会社によって算定される金額が異なります。ただし一定の相場はあります。
弁護士基準(裁判基準)
弁護士基準は弁護士や裁判所が利用する法的な基準です。弁護士が示談交渉する場合や裁判所で和解する場合、判決が下される場合などには弁護士基準が適用されます。
死亡慰謝料の計算方法と相場
死亡慰謝料の計算方法と相場の金額をみてみましょう。
任意保険基準は非公開で各社によって金額も異なるので、ここでは弁護士基準と自賠性基準を比較します。
自賠責基準の場合
自賠責の基準の場合、死亡慰謝料は「本人の慰謝料」と「遺族の慰謝料」に分かれます。
死亡した被害者本人の死亡慰謝料は、一律で400万円です。
被害者に遺族がいる場合、以下の金額が加算されます。
遺族の人数 | 加算される金額 |
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人以上 | 750万円 |
ただし被害者に扶養されていた遺族がいる場合、上記に更に200万円が加算されます。
自賠責保険の「遺族」は民法の相続人と異なる
自賠責保険における「遺族」の範囲は、民法上の相続人と異なります。自賠責保険の遺族は原則として被害者の配偶者、子ども、父母となり、兄弟姉妹は含まれません。また民法の相続人の場合には内縁の配偶者が含まれませんが、自賠責保険の場合には内縁の配偶者でも保険金を受け取れます。
弁護士基準の場合
弁護士基準の場合、被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料を合計して相場を出します。
具体的な数字は、相場をもとに個別事情を勘案して算定します。
弁護士基準の死亡慰謝料は、被害者の家族内における立場によって異なります。
被害者の立場 | 金額 |
被害者が一家の大黒柱だった場合 | 2800万円程度 |
被害者が母親や配偶者だった場合 | 2500万円程度 |
その他の場合 | 2000万~2500万円程度 |
保険会社の提示する死亡慰謝料額は、弁護士基準と比べると大幅に低くなるのが一般的です。弁護士基準と保険会社基準では1000万円以上の差額が出るケースも珍しくありません。
死亡事故で保険会社から提示された慰謝料額に納得できない場合や適正な慰謝料額を知りたい場合、弁護士までご相談ください。ご遺族の方が受け取るべき法的な慰謝料額を無料で算定させていただきます。
死亡事故で請求できる慰謝料以外の賠償金、費用
死亡事故で被害者が命を失った場合、相手へ請求できるのは慰謝料だけではありません。
以下では死亡事故で請求できる死亡慰謝料以外の賠償金や費用について、ご説明します。
葬儀関連費用
交通事故で被害者が死亡すると、遺族は葬儀を出さねばなりません。葬儀は死亡事故がなかたら不要だったといえるので交通事故の損害の一種となります。遺族は加害者側へ葬儀費用を請求できます。
ただし葬儀に関連するすべての費用が認められるわけではありません。
葬儀費用としての支払対象となる葬儀費用と対象にならない葬儀費用は以下のとおりです。
葬儀費用としての支払対象となる費用
- 葬儀社へ払う費用墓碑建立費
- 仏壇、仏具の購入費
- 遺体処理費
- 遺体運送費など
葬儀費用としての支払対象とならない費用
- 香典返しの費用
- 弔問客の接待費など
葬儀費用についても、自賠責基準と弁護士基準で数字が変わります。
自賠責基準の場合には100万円が限度となっています。
一方、弁護士基準の場合には基本的には150万円程度まで認められ、相当な理由があれば200万円程度にまで増額される可能性があります。
逸失利益(生きていた場合の将来分の収入)
被害者が死亡すると、逸失利益も請求できます。逸失利益とは、被害者が死亡したことによって得られなくなってしまった将来の収入です。
被害者が交通事故に遭わなければ、被害者ははたらいて収入を得られたはずです。ところが死亡したら一切の収入を得られなくなるので、減収による損害が発生します。それが逸失利益です。
逸失利益を請求できるのは、事故前に実際にはたらいていた人や主婦などの家事労働者、学生や子ども、一時的な失業者などです。年金受給者の場合にも遺族が逸失利益を請求できます。
一方、全く働いていなかった人が死亡した場合には逸失利益を請求できません。
逸失利益の計算方法
逸失利益は、就労可能年数分を請求できます。就労可能年数とは、働ける年数のことです。
基本的には67歳まで働けるものとして計算します。
ただし被害者が死亡すると生活費がかからなくなくなるので、生活費は控除しなければなりません。また将来受け取るはずだった収入を前取りする利益が生じるので「ライプニッツ係数」という特殊な数字を当てはめて金額を減額調整します。
【逸失利益の計算式】 |
逸失利益の金額 = 事故前の年収 ×(1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
生活費控除率の基準は以下のとおりです。
- 一家の支柱や女性の場合…30%〜40%
- その他の場合…50%
ただし女児が死亡して「男女の平均賃金」を採用して年収を算定する場合、生活費控除率は45%とします。
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治療費、入院費、休業損害(即死ではなかったケース)
死亡事故でも、被害者がすぐに死亡するとは限りません。救急搬送されて、病院でしばらく治療を受けてから死亡するケースあるでしょう。そういったケースでは、以下のような賠償金も請求できます。
治療費、付添看護費、入院雑費、交通費
病院でかかった治療費や薬代、親族が付き添った場合の付添看護費用、入院日数に応じた入院雑費、家族のお見舞いのためにかかった交通費の金額などを請求できます。
休業損害
被害者が有識者や主婦などの家事労働者だった場合、死亡までの期間の休業損害も請求できます。
入通院慰謝料
被害者がしばらく治療を受けてから死亡した場合、死亡慰謝料だけではなく入通院慰謝料も請求できます。
死亡事故と過失割合
被害者が死亡した場合、遺族と保険会社との示談交渉の際に「過失割合」について争いが生じるケースが多々あります。過失割合とは、交通事故の結果に対する被害者と加害者それぞれの責任割合です。被害者の過失割合が高くなると、過失相殺によって賠償金が減額されてしまいます。
一般的な交通事故の場合、被害者と加害者がお互いに交通事故の状況について説明し、それを前提に過失割合が決定されます。しかし死亡事故の場合、被害者は自分で交通事故の状況について説明できません。加害者側の一方的な主張によって被害者に不利な過失割合が提示されるケースが多いので、被害者に不利な過失割合が提示される傾向があるのです。
保険会社の提示する過失割合の数字は適正とは限りません。そのまま受け入れると賠償金を大きく減額されてしまうおそれがあります。被害者側の過失割合が高すぎるのではないか、と感じたら、示談に応じてしまう前にご相談ください。
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死亡事故の仮渡金について
被害者が死亡すると、遺族はたちまち高額な出費を余儀なくされるケースがあります。
まずは葬儀も出さねばなりませんし、今まで被害者の収入に頼ってきたご遺族にとっては生活費すら足りなくなってしまう可能性があります。
そんなときには、自賠責保険で「仮渡金制度」を利用しましょう。仮渡金制度とは、自賠責保険から将来受け取るべき保険金の一部を先に受け取れる制度です。
将来受け取れる保険金の中から一部を先払いしてもらえるので、葬儀費用や当面の生活費などにあてることができます。
仮渡金の金額は290万円で、支払われる回数は1回です。困ったときにはぜひ申請を検討してみてください。弁護士が代理で申請することも可能です。
死亡事故の遺族への経済的支援
死亡事故でご家族を失った遺族には、公的な経済的支援も用意されています。
制度内容をよく知り、漏れのないように確実に受け取りましょう。以下で代表的な遺族支援制度をお伝えします。
遺族年金
遺族年金は、被害者に扶養されていた人などが受け取れる年金です。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。
被害者が国民年金に加入していたときに遺族が受け取れる可能性のあるのが「遺族基礎年金」、被害者が厚生年金に加入していたときに遺族が受け取れる可能性のあるのが「遺族厚生年金」です。
遺族年金を受け取るには年金事務所への申請が必要です。申請には5年の期限もあるので、受給資格のある方は早めに年金事務所へ申請しましょう。
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労災保険からの年金
労働者の方が業務中や通勤途中の交通事故で死亡した場合、遺族は労災保険から給付金を受け取れます。
労災保険からの給付金には、遺族補償給付(業務災害の場合)と遺族給付(通勤災害の場合)の2種類があります。仕事中の交通事故の場合には遺族補償給付、通勤や退勤途中の交通事故の場合には遺族給付となります。
労災保険からの年金受給資格が認められるのは、被害者の死亡時にその収入によって生計を維持されていた一定の親族です。妻であれば無条件に年金を受け取れますが、子どもや親、祖父母、兄弟姉妹などの親族には受給要件があります。
また労災保険からの年金を受給するには労働基準監督署への申請が必要です。
労災保険の受給についても弁護士が相談に乗りますので、ご不明点がありましたらお問合せください。
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遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続(厚生労働省)
生活福祉資金貸付制度(各市区町村・社会福祉協議会)や母子・父子福祉資金貸付制度(各地方公共団体)
各市区町村や社会福祉協議会では、生活福祉資金貸付制度を利用できます。生活費のために緊急でお金が必要な場合などに利用しましょう。
母子・父子福祉資金貸付制度はひとり親が受けられる無利子の貸付制度です。交通事故で配偶者を失った場合などには利用を検討してみてください。
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生活福祉資金貸付制度(群馬県社会福祉協議会)
母子父子寡婦福祉資金貸付金(群馬県)
死亡事故で弁護士に依頼するメリット
死亡事故で弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
遺族がまとまりやすくなる
死亡事故で示談交渉を進める際には、遺族の代表者を決めなければなりません。誰を代表とするか決められないと、いつまで経っても示談交渉を始められません。たとえば遺族間で意見対立がある場合や、誰も積極的に示談交渉にかかわろうとしない場合などには遺族の代表者を決めにくいでしょう。
そんなとき、遺族が全員弁護士に示談交渉を委任すれば手続きをスムーズに進めやすくなります。遺族から代表者を選ぶのに抵抗がある人でも、弁護士であれば信頼して委任しやすいでしょう。
弁護士に依頼すると、遺族がまとまって示談交渉を進めやすくなるメリットがあります。
賠償金が増額される
交通事故の賠償金計算基準には自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。どの計算基準をあてはめるかにより、算定される慰謝料などの賠償金の金額が変わってきます。特に死亡事故の場合、もともとの賠償金額が高いので、計算基準による差額も大きくなりがちです。
弁護士に示談交渉を依頼すると高額な弁護士基準が適用されるので、被害者が自分で示談交渉する場合と比べて大きく賠償金額が上がるケースが多数です。
遺族が示談交渉する場合と弁護士が示談交渉する場合を比べると、死亡慰謝料だけでも1000万円程度の開きが出るケースも少なくありません。
賠償金が大きく増額される可能性が高いことも、弁護士に依頼するメリットといえます。
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過失割合が適正になる
死亡事故では被害者と加害者との間で過失割合について争いが生じるケースが少な苦ありません。ただ遺族は交通事故を見ていたわけではないため、被害者に代わって状況を代弁するのは困難です。そうなると加害者に有利な過失割合が定められてしまう可能性が高まります。
弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士が実況見分調書や供述調書を取得して証拠を集めたり、ドライブレコーダーを詳細に分析したりして、適正な過失割合を定めることができます。
被害者に過大な過失割合を割り当てられず、適正な過失割合を算定しやすくなる点も弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。
労力や時間がかからない
交通事故の示談交渉には労力と時間がかかります。ご遺族にも生活があり、示談交渉にさほどの労力や時間をかけられない方も多いでしょう。
弁護士に示談交渉を依頼すると弁護士が全面的に相手とのやり取りなどに対応するので、ご遺族に負担がかかりません。
ストレスが軽減される
交通事故の示談交渉には非常にストレスがかかります。特に被害者を交通事故で失った悲しみや辛さを感じているご遺族にとっては、示談交渉へ関わること自体が大きな精神的負担となるでしょう。
弁護士に示談交渉を任せてしまえばご遺族は直接保険会社と示談交渉をしなくて良いので、ストレスも大きく軽減できます。辛い事故の記憶を抱えながらも、日常生活に戻っていきやすくなるでしょう。
ご家族を死亡事故で亡くされてしまったら…山本総合法律事務所が力になります
群馬県の山本総合法律事務所は交通事故案件に非常に力を入れており、創業以来、多数の者棒事故を解決してまいりました。死亡事故の被害者やご遺族の権利を適切に実現するには、専門知識とノウハウが必要です。当事務所の弁護士であれば、被害者の無念なお気持ちを晴らし、権利を実現することができます。
死亡事故には時効があり、基本的には被害者が死亡したときから5年以内に賠償請求しなければなりません。放っておくと賠償金を請求できなくなってしまうおそれもあります。
死亡事故で大切な家族を亡くされた方がおられましたら、お早めに弁護士までご相談ください。
山本総合法律事務所について
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